『アルマゲドン』--宇宙飛行士になりたかった

アルマゲドン [DVD]

 この映画が嫌われる理由の一つは、派手で刺激的な場面をいいかげんなストーリーでつなげた映画を宣伝の力で無理矢理売ったところにあると思います。
 たしか、呼び込みたい客層に合わせて強調部分を変えた予告編を複数作って宣伝するのを露骨にはじめた映画の一つなんじゃなかったかなあ。少なくとも本邦ではカタストロフィ/スペースシャトル/ブルース・ウィリスを強調した「アメリカンヒーローが世界を救う」風味、リヴ・タイラーベン・アフレックのロマンス部分を強調したバージョン、*1そして口コミ風のテレビスポット*2の3種を使い分けていた思います。
 そしてこの映画の不幸な点は、宣伝で喚起させたイメージよりも本体がコメディ寄りであった所だと思います。ビールとポップコーンをお供に笑いながら観てればOKな映画だと知ってたら、みんなこんなに怒ったりしなかったのじゃないか。


 それでは、この映画がわたしにとってどれほど印象深いか語らせて下さい。
 ただ、わたしが語ることは実在の「アルマゲドン」についてではなくて、記憶と思い入れと願望とで再構成された虚妄の映画についてであるかも知れない事をあらかじめご了承下さい。映画館で3回半観て、DVDでは数え切れないほど見返したのに、観れば観るほど妄想が錬成されて実像と離れていく気がします。


 ストーリー上グッとくるポイントが2個半ぐらいあって。
 まず、宇宙飛行士になりたかったけどなれなかった落ちこぼれのカタキを撃つかのようなストーリーが好きだッ。
 エリート宇宙飛行士じゃなくて、民間石油採掘会社の社員(人間としてはダメだけど仕事に対してはプロフェッショナル)が世界を救うという爽快さ。この点だけはツッコミを入れる気になりません。つか娯楽映画はこうでなくちゃ!だ。泥臭ーい地味ーな職種でも*3、誇りを持って仕事に打ち込み世界一になればNASAのエリートが頭を下げて頼みに来るんだって。当時、駆け出しの社会人だったわたしは、たしかにこの映画から「がんばれ!」ってメッセージを受信しました。幻聴だったかも知れませんが。
 そして、ビリー・ボブ・ソーントンが演じるNASA司令官トルーマンが好きだ。
 トルーマンは怪我で(?)技術職に転じた、挫折したパイロットであるらしい。今は誉れ高いNASAのトップだけれども、自分が宇宙飛行士になれなかったという悔いを引きずっているっぽい。彼がブルース・ウィリスに託すのは、世界を救ってくれという願いだけでなく、自分も宇宙に行きたかったんだよって想いもなんである。ブルース・ウィリスはその思いを正面から受け止めてね…泣ける。超泣ける。このメチャメチャでいい加減な映画において、このセンは最後まで忘れられずいるのがうれしい。
 トルーマン視点にシンクロして、そのままシャトル打ち上げシーンに入るともうタイヘン。ただでさえ、打ち上げ前後のシーンは美しいのです。台詞は最小限でスローモーションが多用されてて。オッサンたちが目を疑うほど神々しく美しく撮れてて。泣かせに入ってる大統領のスピーチと美しいイメージ映像の連打で、もう!もう!もう! 大統領のスピーチの一節 と相まって、もはやブルース・ウィリスが理想のヒーローにしか見えなくて。すさまじい映画マジックだと思います。*4 *5
 残りの「半」は。
 ヒーローの代替わりというテーマが意図されていたんじゃないかなあ、と想像します。
 ブルース・ウィリスは冒頭からヒーローとしてキャラ立てされているのに対し、未だヒーローになっていない存在としてベン・アフレックが配置されています。彼はヒーローになる素質はある(たぶん)のですが、実績と経験に乏しいためブルース・ウィリスは後継者として認めていない。彼の努力と勇気、成長、勝利が適切に描かれていれば、多くの若者の共感を呼んだでしょう。また、ブルース・ウィリスが、娘と未来を託すに値する若きヒーローとしてベン・アフレックを認めるシーンが説得力を持って描かれていたらタイヘンなことになっていたと思うのですが…なーんか印象が薄い…ような…。ブルース・ウィリスが娘かわいさに極端な選択をしたように見えるような見えない…ような…。
 ぜんたいに、後半、舞台が小惑星に移ってから画面が暗くてチカチカしてて音がうるさくて、何やってるかよく分かんない。部下たちのプロっぷりがあまり発揮されてなくてしょんぼり。冒険の度がすぎてていくらなんでもそりゃァないだろう、とツッコミたくなって落ち着かない。つか後半はネタをつめこみ過ぎで引っ張りすぎだよなあと思い、DVDではサクッと飛ばします。


 最後に、個人的な思い出を一つ。
 前半のテンポ良さ、シャトル発射シーンの美しさ、後半のめちゃくちゃっぷり、その3者の乖離の度合いのはなはだしさが笑いツボを刺激して、これはおごってでも「分かる」人間に紹介する価値があると思い、2回目は弟を伴って映画館に行きました。
 終わって、ね、面白かったでしょ?と笑顔で振り向いたら、弟が男泣きに泣いていたのでした。
 弟よ、姉はあの時、ひねくれた自分の性根をひどく恥じたのだよ。


 追記。
 嫌われるもう一つの重大な理由。
 →逝きすぎた「世界のリーダー亜米利加万歳」思想。

*1:おそらく前年公開の「タイタニック」が開拓した客層を狙っていたのでしょう。

*2:お定まりの「全米興行収入ナンバーワン」「総制作費×億ドル」「○○を超えた」に、映画館から出てきたばかりのお客さんたちが「すっごい泣けた!」などと興奮してしゃべるCMをばんばんテレビで流してたものさ。

*3:石油採掘屋さんゴメンナサイ

*4:世界中の人たちが大統領演説に耳を傾けているシーンは見なかったことにします。ツッコミたくなっちゃうから。

*5:実際のシャトル打ち上げを撮影し、CGでシャトルにツノとか光輪とか描き加えたって話です。映画のためにシャトル内部もなめるように取材したとか。他にもNASA敷地内の名所や管制室をこれでもかこれでもかと魅せてくれるし、訓練シーンは「ライトスタッフ」のパロディっぽくて、監督氏の宇宙へのアコガレがストレートに出てると思います。そのストレートさが大好きだ。