怪物の思い出

(承前)
 「20世紀少年」が21巻で完結していなかったので、休憩室へバックナンバーを漁りに行きました。
 ピンポイントで最終回の号がなくて悶絶しました。
 にわかに腹立たしい思いに駆られ、知人に電話をしました。
 「20世紀少年」は引き延ばしすぎだとかなんとか、悪口を言ってしまいました。
 そして、短編連作の「MASTERキートン」は面白かった、長編だったけど「YAWARA」は面白かった、との話になって、
 「MONSTER」は…?
 あれ、「MONSTER」は…
 カレーの匂いがする。
 そうだ、カレー屋で読んでいたんだった。
 インド帰りの元ヒッピーの親父さんが、趣味でやっているカレー屋。
 メニューが1つしかないカレー屋。
 「MONSTER」の新刊が出たと聞くたびに、親父さんのカレーが食べたくなって。
 親父さん、わたしの前任地の出身で、老いた両親が今もそこに住んでいるって。
 奥さんも同じ町出身で、商売を聞いて驚いたっけ。
 直接取り引きするチャンスがなかったのが不思議なぐらいなニアミスな関係で。
 親父さん、あの人の旦那さんだったんですか。
 びっくりしましたよ。
 ああ、でも、なぜ、なぜそんなことを知って居るんだろう。
 親父さん、聞きもしないのにおしゃべりするのはやめて。
 親父さん、わたしはカレーを味わいたいのだから。
 親父さん、わたしは「MONSTER」を読んでいるのだから。


 そうだ。
 親父さんは数年前にカレー屋をたたみ、「MONSTER」は最後まで読めなかったんだ。
 売れなかったんだろうなあ。ああ、「MONSTER」じゃなくて。カレーが。
 近頃お気に入りのココイチのスープカレーは、そう言えばどこか親父さんのカレーの匂いに似ているかも知れない。
 「MONSTER」が読みたいなあ、と思いながら食べに行きました。


 きょうは醤油は出てきませんでした。
 でもお会計の時、「お醤油なくて大丈夫でしたか?」と聞かれてしまった。