『三国志きらめく群像』高島俊男 著

三国志 きらめく群像 (ちくま文庫)
 花粉症の季節はとうに終わったはずなのに、くしゃみが出ます。鼻が通りません。ぷんすか。
 今日、やっとコタツをしまいました。コタツ布団をばたばたしたらまたくしゃみが。ぷんすかぷんすか。
 最近は、本ばかり読んでいます。
 というのも『陋巷に在り』が面白くて読み終わるのがもったいなく思え、一巻読み終わる毎に別の本に脱線しているので。


 今日は三国志の解説本を読みました。
 英雄豪傑が大活躍・オカルトもいっぱいだヨ!的な物語としての「三国志」のファンと、歴史としての「三国志」を愛する人々の間には細くて深ーいミゾがあると聞きます。そして、この本を書いたのは後者であるようです。
 しばし、細くて深いミゾについて思いを馳せました(婉曲な表現)*1
 でも、とても良い本だと思います。読みやすく、面白くてためになる。


 冒頭で、歴史書としての「三国志」そのものについて解説されています。研究史や、物語としての三国志の成立過程にも触れられています。それ以降は、主な人物につき一人(+α)一章のスタイルで書かれています。好きなところから読めるのでお気楽です。
 曹操劉備孫権孔明は「4大スター」として巻末にかなりのページを割いて解説されています。*2 この章の中では、孫権の項を興味深く(彼は曹操劉備よりも一世代若く、また長生きもしたので、晩年の話はあまり聞く機会がないので)、孔明の項を腹を立てながら(笑)読みました。
 後世の研究書、それも日本人の手によるものではなく、本場中国の古参・定番の研究書にも目を通して珍しいエピソードを紹介し、エピソードの信憑性まで検討しているので、とても面白かった。邦訳が出てなさそうな資料まで見てるし。漢文を白文で読めるんでしょうね。うらやましい。
 また高島先生は、毒舌家で有名であるらしくて?その毒舌、いやツッコミがテンポ良くて心地よく、セリフ部分の訳の砕け具合もいい感じで、さくさく読めました。


 新しめの三国志関連の解説や物語で、「こんな見方もあったのか」と感心した説が、けっこう載っていたように思えた?ので、あちこちで参考書として重宝されているのかなーと思った。*3
 ただ、A・Bという作品が、共にという資料(あるいは作品)を参考にしていた場合、を知らぬ者からは、あたかもA・B両作品に何らかの関係があるように見えてしまい、それをぱくりぱくられの関係だと早合点して声高に主張しちゃうと大恥をかくので注意が必要だと思います。とくにがマイナーであったり、A・Bがオタク領域かつが非オタク領域であったりした場合…(経験者談)


 それはそうと。
 作者の方は、「物語としての三国志」がほんとうに嫌いなのでしょうか?
 前述の「4大スター」というくくり方だとか、完全に「物語としての三国志」を無視している訳ではないし、むしろ意識しているのかなあ、と思ったりした。もしかしたら、歴史書『三国志』を書いた陳寿が蜀を持ち上げている?のと、「物語としての三国志」で蜀が持ち上げられすぎているのを苦々しく思っているのでしょうか? 実際はこうだった、とさらりと書くだけで十分ショック(笑)なので、そんなに力説しないでもいいじゃないか、と思わないでも、ない。*4 *5
 でも、「物語としての三国志」(たぶん『三国志演義』だと思うけれど)もちゃんと読んでいて「ここは話を面白くするために創作したんだと思う」と解説してくれるのでとても面白かったのです。


 あと、司馬懿のことはほとんど書いていないのだなあ。
 どうも彼は三国時代の人と言うより、次の晋王朝のご先祖として晋の歴史で扱われる人らしいのです。
 ああ、高島先生が司馬懿のことも痛快にバッサリやるのを読みたかった。
 孔明だけバッサリは不公平だっ


 最後に。
 作者の、司馬光への「しょうがねえなあ」と言わんばかりの暖かい視線に萌えた。
 (高島先生によれば、『資治通鑑』を書いた司馬光は、オモシロエピソードは多少うさんくさくても積極的に採用したのだとか?)

*1:てかmyドリームが木っ端微塵……………

*2:こういうくくりは「物語としての三国志」を強く意識してやしませんかのう?

*3:ハードカバー版は94年出版だそうです。「三国志 人物縦横断」大修館書店

*4:この手の気づきでは、個人的には、ちくま学芸書房の「正史 三国志」を見た時がインパクト大でした。全8巻のうち、魏パート4冊、呉パート3冊、対して蜀パートはわずか1冊だったのです。

*5:いっしゅん、吉川英治三国志(我が国での「物語としての三国志」の定番)を批判しているようにも思えたのですが、どっちかと言うと吉川英治が元ネタの一つとして使った『通俗三国志』は翻訳がいい加減である、とそっちの方をより苦々しく思っているようでもあり? 「物語としての三国志」の中国での決定版『三国志演義』の「ちゃんと」翻訳されたものは、作者的にはセーフであるらしい?