ソクーロフの『太陽』

 イッセー尾形昭和天皇映画です。
 当地では映画が安いのです。1本1200円。6本観ると7本目はタダ。
 そのシステムを駆使して1200円で2回観ました。続けて。一日に。


 わたしにこの映画の存在を教えてくれたブログ
 id:TomoMachi:20060318
 教えてくれただけじゃなくて、強く「観たい!」と思わせる素敵な紹介でした。


 素敵だと思った部分はすべて、町山氏が既に素敵な筆致で紹介しているので、わたしは素敵でない紹介を素敵でない筆致で書きます。
 イッセー尾形昭和天皇は、常に口が逆三角形に開いていて、あまりキレイでない歯と歯ぐきが覗いていました。不快に思いました。
 彼の唇はもぐもぐしています。
 たぶん、彼が声に出さずに考えている言葉を反映している、のでしょうか?(最初、幻聴でもあるのかと思った)
 か細いBGMはひとの神経を逆なでするような、ホラー映画の導入部のBGMみたいでした。BGMよりもひときわ大きく耳障りに響き渡る、鉛筆を走らせる音、飛行機の爆音、廊下の足音、ラジオの雑音。
 その中で、なにかがズレている昭和天皇の言動。
 前半は、これは気持ち悪〜い映画だから笑っちゃいけないのかと思って真剣に見ていたのですが、後半、これはコントではないのか、という思いが押さえきれず必死で笑いをこらえました。
 マッカーサーの「子供みたいな人だ」という台詞の後、奇行、そう奇行としかいいようのない昭和天皇のズレた言動が……か…かわいく見え……見え………なんという映画マジック。


 戦争映画を期待すると(するなよ)、肩すかしをくいます。
 映画は地下壕での朝からはじまって、ラジオは沖縄玉砕を伝え、着替えてお出ましになる先は煮詰まりきった御前会議なので、ああ、大戦末期なのねと思って見ていたら、いつの間にかマッカーサーが来ちゃっててびっくりしました。
 本土空襲は陛下の悪夢の中のみ。ヒロシマはマッカーサーとの会見時に台詞で触れられるのみ。劇中では玉音放送もなし(レコードに吹き込んだという話題は後で出る、もしかしてスタッフロールで流れていた?)。8月15日前後は、陛下の周囲もそうとう騒がしかったろうと想像するのですが、とにかくそういうのは一切なし。
 思い返すと、平家蟹の研究は戦時中ですが、手紙を書いている場面は既に終戦後、マッカーサーとの会見の日なんでしょうね。あの恐ろしくも美しい悪夢はいつの出来事なんだろう。終戦後なんだろうか。
 映画の冒頭で、佐野史郎の侍従長が「本日の予定は」と申し上げた通りのスケジュールで場面が変わるので、1日のうちの出来事かと錯覚してしまいます。
 たぶんわざとだと思います。


 廃墟の東京にダウトを感じました。
 あれは一般住宅も石で出来ている国の廃墟の風景ではないかと思いましたです。
 鶴の演技があんまりにも素晴らしかったのでCGかと思ったのですが、実写なのだそうです!
 米内光政が格好良かった。彼は若い頃、「背が高くてほりが深くて外人みたいで格好いい」と言われていたそうです。阿川弘之がそう言ってたよ!
 そんな日本人離れしたハンサムがおじいちゃんになったらこうかも、てな感じでした。西沢利明氏。
 あと、御前会議で音高く鉛筆を走らせていた人は、平成の白い巨塔で大河内教授役をした品川徹氏だったようです?
 スタッフロールの背景は皇居を上空から見た図?(たぶんCG)でした。
 これが繰り返し動画で、右下と中央下で白い鳥が規則的にくるくる舞っているので非常に神経に触りました。
 神経に触る不快さと、奇妙なのに心暖まる思いが入り交じる、不思議な映画だったと思います。


 あと。
 2回ともいちばん見やすい4列目5列目の席が売り切れでした。
 でも、映画がはじまっても誰も来ないの。最後まで誰も来ないの。
 謎。