『ミュンヘン』

 オリンピックつながりで、なんとなく(嘘)
 陰鬱な映画でした。
 画像が荒くて、ハリウッド娯楽映画によくある楽しい映画的けれん味はあんまりなかった。(そりゃそうだ)

 主人公は、モサドの暗殺チームのリーダーです。
 暗殺指令を拝命して、他の国に潜伏しているチームメンバーを招集します。メンバーはそれぞれ特技を持ち、性格や年齢、表の職業もバラバラです。でも共通の目的のために力を合わせるのです(燃)
 主人公の特技は、料理です。別に料理で暗殺したりする訳じゃないけど。
 最初の顔合わせで、すんごいいっぱい料理を作ってもてなし、メンバーを驚かせます。
 当地に「ご飯じまい」という表現(方言)があります。ご飯の支度をする役割(または仕事)という意味ですが、広く家事一般またはそれを担当することも指すかも。ドメスティックつーか泥臭ーい地味な印象です。なんか、主人公の特技は「料理」つーより「ご飯じまい」だと感じました。
 えーとつまりその、「ご飯じまい」するリーダーが主宰する、アットホームな暗殺チームの楽しさを感じて、微笑ましく見てました。へっぽこ爆弾製作係とか、銃を抜くのに手間取る主人公とか、ひょうひょうとしてるけど実は手練れの老人組とか。
 しかし後半、その楽しさは失われていきます。
 信頼できる国家と、仲良しチームと、外部の悪いターゲット。そんなシンプルな関係ではなくなって行きます。てか最初からそうだったとも。
 チームだって外の世界とつながっています。チームの行動(暗殺)に対して、こだまのように外の世界から帰ってくる返答。報復テロ。
 ターゲットを倒した後に、より手強い後任者たちが来ます。

ファミコンメトロイドを制覇した後か?何もない。最初に戻るだけだ」*1

 チームが外の世界を見るように、チームも外の世界から見られています。
 秘密結社とかアジトとかってのの何が甘美かって、そりゃアナタ、安全な所から信頼できる仲間とともに、ターゲットを一方的に見て計画することが出来るからですよぅ。見つめ返されるのは、カウンターの危険が生じるし、呪い返しにも通じますしの(嘘)
 つか最近「安全なところからこっそりじっくり観察したい」という歪んだ願望が自分にあることに気がつきました。その願望は、もっぱら映画館で戦争や人類滅亡や、人間関係の修羅場をスクリーンで見ることで満足させていますが、これが逝きすぎるとリアルで覗きとかに…なるのかな……気をつけます…
 で話を戻しますと。
 金八先生(後述)が持ってきた彼らのポートレイト(盗撮写真)がショックでした。安全なところから一方的に見ているという甘美な安心感を一撃で打ち砕くものでした。
 チームも、見られている。
 それはつまり、狙う立場から、狙われる立場に変わったということです。
 無名のルーキー時代は無邪気に見えた主人公が、徐々に「世界中から狙われている」被害妄想でいっぱいになってゆく姿に、心が痛みました。
 世界は悪意に満ちている。外の世界は悪意でいっぱい。自分が生まれる前からの悪意でいっぱい。自分たちが外の世界に向けて投げた悪意も、倍になって投げ返されてくる。今更、降りることはできない。どうしていいのか分からん。誰にも分からん。
 ミュンヘンオリンピック事件の凄惨な場面が、ストーリーに割り込むように挿入されています。主人公が見ている幻とも見えます。
 凄惨な幻から目をそらすこともできず、恐怖でいっぱいに開かれている主人公の目を、


 おおう妻の手。


 ここだけがわずかに救いでした。このシーンがなかったら、わたしの中で鬱映画ランキングトップに躍り出たと思います。


 ラストシーンに世界貿易センタービルが写っていました。
 年代的にありえるのかなと疑問に思ったのでwikiで検索してみました。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%AF%E4%B8%96%E7%95%8C%E8%B2%BF%E6%98%93%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%AB
 ツインタワーがそろったのが1973年なのだそうです。
 劇中の年代から言うと、ちょうど出来たばっかりのツインタワーなんでしょうか。知って、ますます陰鬱な気分に。


 中東問題は疎いです。ミュンヘン事件とか、こんかい初めて知りました。
 映画での描き方だと思いますが、あの国は、罪は相手のみにあると確信し、個人の後悔や罪の意識には共感できない、戦えない者には興味のない国家に見えました。映画だけ見て感想を言うなら、「どっちがテロ国家か分からん」て思いました。


 優れた感想
 id:Projectitoh:20060124#p1 いつもお世話になっております
 id:hanak53:20060218 嫌がらせポインツが面白すぎです…


 イタリア人情報屋(?)のルイが気になりました。演技も味があって良かったのですが、それ以上に誰かに似てる誰かに似てる、と気になって気になって。
 金八先生…か!?

*1:おっとこれは「ジャーヘッド」だった