『UMAハンター馬子完全版(2)』

UMAハンター馬子―完全版〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

UMAハンター馬子―完全版〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

 書きおろし2本を加え、馬子とイルカの物語は完結です。
 1の感想はこちらです。→id:wang2zhonghua:20050125#p1


 師匠に叱られてうつむいて涙をこらえるイルカちゃんがカワイソ可愛らしくて。イルカちゃんの「普段はこんなだけど、師匠は本当は立派な人なんだ」という想い(思い込み?)が残酷に裏切られることがなければいいなあ、とそれだけを念じておりました。
 2巻を最後まで読んで、安堵のため息をつきました。


 この人の書くUMAは相変わらず臭います。(←別にほめていません)
 くだらない駄洒落の連発は相変わらずです。(←ほめています)
 とくに、章間の「ベストヒットUMA」という題のエッセイがひどい。(←ほめています)
 前章でとりあげたUMAへの思い入れや苦労話を語るエッセイで、1巻は駄洒落を交えながらもそれなりに文章としてまとまっていたように記憶するのですが、2巻ではすっかり壊れてきていると言うか、ついにまとまった文章を書くのを放棄したのか、それとも締め切りが大変だったのだろうか、と心配になりました。

「ちょっと、どこいくの。宿題まだでしょ」
「だって約束したんだもん、平山くんとこ遊びに行くって」
「平山くんって誰よ」
「だから、由起夫とこだよ」
       「ベストヒットUMA 雪男」より

 などと唐突に駄洒落小話(?)が挿入され、ヒバゴンの歌(もしかして替え歌?)で終わっている文章を読まされて、一体どのような感想を述べたらいいのでしょうか。(←ほめています)

 チュパカブラのことを考えていると、なんとなく「阪神タイガース」という言葉が頭に浮かぶのだが、これはなぜだろう。いろいろ考えてはみたのだが、どうやら「チュパカブラ」という語感が「蔦葛」を思わせるところから、甲子園球場のあの蔦のからまった外観が思い浮かぶらしい。
       「ベストヒットUMA チュパカブラ」より

 などと他人事のように淡々と告白されて、わたしは一体どのような感想を述べたらいいのでしょうか。(←ほめています)
 読んでいて意味不明の部分があったら、自分の知らないネタをかました駄洒落があると思って間違いありません。黙読って、速度を上げると活字を字面だけでとらえてて心の中で音読しなくなりますよね。こうなっちゃうと駄洒落を見落としてしまうのです。対策としては最初から朗読で行くしかない。そう覚悟を決めてぶつかりました。
 ちょっと前に「声に出して読みたい日本語」が流行りましたが、テクストそれ自体が音読を強制するってのは前代未聞なのではないでしょうか。(←ほめています)
 しっかし駄洒落。駄洒落。
 えーと、ほら、キリストの墓があるという青森県戸来村の話がありますでしょう。
 戸来はヘブライが訛ったものでー、とか、村に伝わる意味不明の童謡をヘブライ語に直すと意味が通じるー、とか。
 駄洒落って、この手の手続きと通じるトコロがあるのかも知れないなあ、と思いました。
 あと、この方はクトゥールー神話作家さんなんですね。クトゥルー神話の元に全ての神話伝承が統合される系の至上主義者ではなさそうですが、元ネタの一つとして確実に、ある。*1
 1巻に前編、2巻に後編が収録されている「恐怖の超猿人」からアレ?と思いました。まず地名が一部そうだし、

 飛騨権現さまはわしらの父御、不動羅刹さまはわしらの母御。わしらはお二人のもとにいつの日か帰りますで…。

 はダゴンとヒュドラではないかと思いました。
 ところが「根暗蚤本」などというトンデモ当て字でガクーと前のめりに突っ伏してしまいました。驚いたらいいのか笑ったらいいのか分かりません。(←ほめています)
 最終話では、主神級の神さままでがトンデモ当て字の餌食になってしまってをりまして…ほ…ほめ…ほめたく…ないかも…。


 全編通じての「悪役」は日本有数の巨大財閥の御曹司です。目的のためには暴力も殺人も辞さぬ上に金も権力もある、なのにすっっっっっごい間抜けで…(遠い目)
 ツメの甘さといい、頭の悪さといい、近年まれに見る間抜け悪役だと思います! 堪能しました。


P.S.
 今気がついたのですが、各章のタイトルはウルトラセブンなんですね…
 気づかなかった/知らないネタがもっともっと仕込まれていそうな予感がします。それも30代後半のオタク限定の濃っゆいヤツが。



P.S.2
 わたしは自他共に認めるヘタレ悪役の愛好家であります。
 その一方で、作者のかしこさをダイレクトに反映するのは、主役ではなくトリックでもなく漢字の多さでもなく、悪役だと思っていたので、ちょっとどうしようかと…(もごもごもご)

*1:「asin:4087744922:title」か「asin:4198613362:title」を読んだときもそんな気がしましたっけ。どっちだったか、あるいは両方だったかは失念しました…。