『かすとろ式』

かすとろ式 (Ohta comics)

 佐藤秀峰氏の『海猿』がとても面白かったと言うこと、『ブラックジャックによろしく』よりも好感を抱いたこと、そして『亡国のイージス』の漫画化を佐藤秀峰氏にやってもらったら、さぞ面白い漫画作品にしてくれたのでは、とそんなことをここで訴えたかったのですが、それどころではなくなってしまったのでそれはまたの機会に。
 行きつけの本屋さんは、ゲーム攻略本と少年週刊誌のマンガ本にしかビニールをかけていません。そして何ヶ月かに一度、駕籠真太郎氏の作品が新刊コーナーに並びます。わたしは、非常な嫌悪感と恐怖感に襲われながらも中身を確認せずにはいられません。冷や汗をかきながら最後まで読んだ後、…何回かにいちど、蛇ににらまれた蛙の心境でレジに持って行ってしまうのです。いえ、彼の奇想への驚きと尊敬を上回る嫌悪感に圧倒され元の場所に戻してしまうことの方が多いのですが。よって、所有しているのは『六識転想アタラクシア (F×COMICS)』『踊る!クレムリン御殿 (PEACE コミックス)』と、今日買ってしまったこの本のみです。
 思うに、駕籠氏がほんとうに描きたいものを描ききった作品は…わたしは耐えられないでしょう。おそらく、何らかの理由で控えめにした作品をかろうじて所有できているに過ぎないと思います。だからわたしは、ほんとうのファンじゃないはずです。
 ああ、しかし。
 だいたい彼の作風は、素朴な疑問(あるいは小さな不安)を極端に誇張して見せるだけです。手の内はだいたい分かっているんです!
 でも、真っ白い年賀ハガキを見れば「ジュースをこぼしたらどうしよう」(実際には、ジュースなんかもう何年もこぼしちゃいない)とつい考えてしまう空想先行型人間の不安を強く刺激するのです。おまけに、心にぽつんと浮かんだ針の穴ほどの不安を、めりめりと力ずくで拡大して見せてくれます。怖いです。ほんとうに怖いです。
 最高レベルの感嘆と嫌悪と恐怖を同時に喚起させられるがゆえに、駕籠氏の本は見つけると確認せずにいられません。
 でも内臓は勘弁して下さい。


 あと、彼の絵がとても好きです!(告白)
 スケッチ調のざかざか線に逃げない、どこまでも端正な線で。『六識転想アタラクシア (F×COMICS)』の、ごちゃごちゃしたディテールがきちんとしたパースの上に配列され、端正な線で描かれているのに驚いたのがmyファーストカゴシン体験でした。*1 
 女の子は端正で清潔感にあふれていて、すごくかわいいと思います。すぐ血や内臓が出たりしますが。そうでなかったらホンモノの変態だし。困ったモンだ。
 つか絵がこんなラブリーじゃなかったら、一生知らずに済んだはずなのに。困ったモンだ。


P.S.
 この本でいちばん驚嘆したのは「国民の創生」です。いちばん好きなのは「駅前創造」です。ステキに阿呆らしくて好きだ。つか屋根裏やタンスから顔を出してはムキになって奇跡を大安売りする神さまたちがこの上なく可笑しく愛らしい。
 いちばん耐えられなかったのは「ロード・オブ・ザ・輪具」です…
 あと、カゴシン初体験には内臓少なめ(当社比)の「パラノイアストリート」とかどうでしょうね?(わたしは持っていませんが…)
P.S.2
 今日、はっと気がついたのですが、駕籠氏はマンガ制作にパソコンを導入しましたか!?
 効率とか質の向上とかが目的じゃなくて、思いついたけど手描きじゃちょっとタイヘンだなあ、というネタをやるがためにパソコンを導入したのかと疑いたくなるような、そんな驚きと尊敬の念。駕籠氏は天才だと思います。
 でも内臓は勘弁して下さい。ほんとうに。
P.S.3
 今日の日記で友達を減らしてしまったかも知れませんね…

*1:コンスタントに新刊が出るのとあわせ想像するに、本人は几帳面でまじめな人なのかしら、と思ったりする。