『月館の殺人 下』

月館の殺人 (下)??

月館の殺人 (下)??

 佐々木倫子の作品の面白さは、ズレの感覚だと思います。
 当人には深刻な悩みが、他人にはそこまで深刻な悩みには見えない。ここにある価値基準のズレが、笑いにつながります。そして、本当は深刻ではないからこそ、安心して笑える。
 悪く言えば、ある種の鈍感さとも言えるかも知れません。
 怒り、恐怖、(ちょっとここに並べて書くのはためらわれますが)恋愛感情、それらがむき出しで描かれることはなく、ちょっと体温の低い、ちょっと遠い感じで描かれます。加えて、本当は深刻ではないから、安心して笑える。


 そこがいいんだー。


 その面白さは、この作品でも健在でした。
 ただ、殺人事件はこの作風に似合わないのではないかと思いました。
 人の死に対しての恐れと畏れが足りないように見えちゃう。かも。
 これがたとえば、盗難(しかも、テツ以外には価値の分からない品物だったりして)だったら、もっと心から楽しめたように思います。