『ホテル・ルワンダ』
ルワンダ大虐殺の実話をもとに作られたこの映画、観てきました。
ルワンダ版「シンドラーのリスト」とでも言いましょうか、ホテルマンが大虐殺から逃れた人々をホテルにかくまう話です。
どこでどう予備知識がインプットされたのか、
「四つ星ホテルの品格こそが我々の武器なのだッ」
とビシッとスーツを着たホテルマンが、洗練されたおもてなしで狂気を受け流してキッチンに隠した難民をかくまいきる話かと思っていました。
だって、だって、だって、最上級の職人仕事は銃よりも強く、政治問題すら解決しうるってお話ってよく見るじゃないですか。
美味○んぼとか。
もちろん全然違いました。
あたりまえです。わたしが間違っていたのです。
映画館に行って、しまったと思いました。
いちばん奥の小さい初めての部屋に通されて、ほかの部屋ではビールすらオッケーなのに、この部屋では飲食禁止と言われてびびりました。まわりを見れば、お客さんはみんな意識の高そうな気合いが入った様子で。鼻をかんだら退場だったかもだ。花粉症持ちはどうしたら。
あと、映画館って、客層に合わせて予告編の編成を替えるのではないでしょうか。
予告編を観ると本編を見たくなります。
今日の選択が分岐点で、社会派映画ルートのフラグが立ちそうなんですが、明日はジェット・リーの「SPIRIT」を観るのでリセットがかかっちゃうかもなあ。
『ホテル・ルワンダ』の主人公は、欧米資本ホテルの現地支配人です。
映画の冒頭では、彼のホテル支配人としての優秀さが描かれます。
なんか、軍高官や欧米人に袖の下を渡しまくってるんですけれども…
なんか、ダメになったロブスターの殻にべつの肉詰めて客に食わしてるんですけれども……?
偽ロブスターを食べさせられたのは国連軍大佐だったように思います?(自信ない)
この大佐さんは最後まで主人公の味方でした。とすると偽ロブスターはばれなかったのか?
と、とにかく優秀なホテル支配人なのです。
主人公は奥さん(ツチ族:虐殺される側)に断言します。
「いま作ってるコネは、将来、自分と家族を救うために一回だけ使うんだ。
今日、冤罪で連れて行かれたツチ族の隣人は、かわいそうだけど救えない」
冒頭の方での主人公は、ずるくて臆病な人です。自分は成功しているという自負があり、貧困層の人々を見下げる気持ちがあったかも知れない。政治に対しては、ノンポリ。ツチ族根絶やしを叫ぶフツ族過激派とは一定の距離を取りますが、積極的に反対するわけではありません。ただ、頭を低くして政治の嵐をやりすごそうと考えています。自分と家族が無事ならいい、と。
この人が危機に際して見せた変化(利己主義→博愛、臆病→勇気)こそが爽快感の源なのですが、それを上回る鬱要素がふんだんにあって、見終わったあとの気持ちはどんよりです。
ひとつには主人公が絶え間なく晒されていた恐怖。
ホテルマンのスキルと地位は絶対の武器ではなくて、わずかなアドバンテージにすぎないってのが(先入観と違ってて)、鬱。一人の男が、ぶるぶる震えながら手元のもの(ホテルマンとしてのスキル、地位、コネ)を必死に使ってるの。気づいたら、上映中ずっと肘掛けを握りしめていました。
暴徒のリーダーに名前を聞かれて「俺はお前の名前を忘れないぞ」とすごまれる場面はめっちゃ怖かった。仮に自分がこのような局面に居合わせたとして、自分の勇気とはかりにかけてかろうじて出来そうな事と言ったら、顔を伏せてじっとしている事です。暴徒の目に留まらないように。たぶん、主人公もそうしていたかったのでは。
なのに、暴徒の目に「アイツだ!」と名指しにされる恐怖。その他大勢ではなく、個人として、敵として認識される恐怖。
トイレ行きてぇ!
でも、席を立ったら周りの人に個人として認識(映画の途中でトイレに立つ女)されそうで行けなかった。
もうひとつには、100万人以上という大虐殺の規模です。
主人公以外にも、命を賭けて自分の職務を果たそうとした勇気ある人々が登場しました。主人公なんか1200人の命を救ったんだぞ。
自分が現場にいたら、あんな勇気のあること出来るか?出来るか?……すみません無理ですorz
なのに霞むんですよ。彼らが無力に見えちゃうんですよ。なんてこった。
なによりもショックなことは、この事件があったのが1994年だと言うことです。
どこか、世界はこういう悲惨さは既に克服したと、思いこんでいたので……
町山智浩アメリカ日記(id:TomoMachi)でこの映画のことを知りました。
当初、日本での公開の予定はなかったそうです。
熱心に署名活動をしてくれた人たちの努力のおかげで、きょう、山形で観ることができました。そう言えば、フィルムが痛んでいました。あちこちで上映されたのでしょうか。
ありがたいことです。
ズレた感想を口走っていてすみません。
ホテルの従業員(主人公の部下)たちが誇り高いプロ意識と団結力を示してくれれば、もうちょっとエンタメ寄りになったかもとか。また言っちゃった。
町山氏のブログでもっとも腑に落ちたのは、
『ホテル・ルワンダ』は現実版『ドーン・オブ・ザ・デッド』だ(id:TomoMachi:20050226)です。
認めたくなかった悪い予感が、ある日突然、現実になってしまったショック。世界は狂ってしまったのだと、じわじわとクるあの感じ。
下手な恐怖映画よりも怖かったです。いやあな怖さ。
実話である分、いっそう「いやあな怖さ」です。
凄かった感想
http://d.hatena.ne.jp/hanak53/20060325
パニック映画のフォーマットの部分、特に導入の表現は、喜んで観ておりました。ギャ。
主人公がハイソサイエティなんじゃないか、という指摘は興味深かったです。
そう言えば画面に良く映る避難民はこぎれいな人が多かった。