『鉄の夢』--変な本。

 …したがってスピンラッドの『鉄の夢』は、アドルフ・ヒトラー作『鉤十字の帝王』第二版という、この世に存在しないSF本をそっくり再録した現実の本ということになる。つまり、スピンラッドはヒトラーなるB級作家の作品をここに再録するだけで、表面上はまったく何ひとつ自信の肉声を用いていないのである。ヒトラーの遺作『鉤十字の帝王』と、その第二版のために寄せた心理学者の<あとがき>と、出版社のコピーとから成り立つ一冊の本が、つまり『鉄の夢』なのであって、スピンラッドはこの作品に『鉄の夢』というタイトルを与えただけの役割にとどまっている。では、なぜこんな中国の手品箱みたいな仕掛けを用意する必要があったのか?
        荒俣宏「訳者あとがき」より

 いやなんか、すごい変な本があるって聞いたのです。SF作家ヒトラーのヒューゴー賞受賞作!!!!!!という設定の。
 ひと目見てみたいと思っていた本が、手に入りました。
 ノーマン・スピンラッド作『鉄の夢』ハードカバー版
 ハードカバーは昭和(!)55年。文庫版はこちら→asin:4150106983
 いずれも絶版、今のところ再版予定なし。


 この本全体を書いたのはもちろんSF作家のノーマン・スピンラッド氏です。
 が、この本は、出版社による煽り文・ヒトラー略歴+ヒトラー作『鉤十字の帝王』+(架空の)心理学者による「作品解題」という構成になっています。荒俣先生のあとがきにあるとおり、著者の肉声がどこにもないボケッぱなし本。誰か!誰か突っ込んであげて!
 「作者紹介」によると、SF作家のヒトラーは、第一次世界大戦までは<あの>ヒトラーと同じ経歴です。戦後、NYに移住し、まずSF専門誌のイラストレイターとして人気を博し、後にSF作家に転向したとのこと。ヒトラーが政治家にならなかったパラレルワールドということでしょう。
 「作品解題」では、SF作品『鉤十字の帝王』作中のナチスドイツ的軍隊のありようと、作品から透けて見える作者(=ヒトラー)の誇大的かつパラノイア的心性とが、「この作者アタマおかしいんじゃないの」と突っ込まれまくっています。
 その解説に対し、「ちょwwwそれこっちじゃ現実にあったヨ…orz」と不謹慎にも巨大掲示板スラング混じりで突っ込まずにはいられません。
 いや、ホント、期待以上の変な本でした。満足しました。
 本文は…読まなくてもいいかな…とか思っています。ごめんなさい。