『項羽と劉邦』
(←下巻だけ表紙の画像があった)
何かの間違いかと思うほど寒い日が続きますが、お変わりありませんでしょうか。
当家では、忙しさに取り紛れて片づけそびれていたコタツが大活躍です(恥)
昨日で仕事が一段落したので、コタツに潜り込んでビールを飲みながら「項羽と劉邦」を楽しんでいました。極楽です。負け惜しみではありません。至福です。ほんとうです。
「項羽と劉邦」、めっちゃ面白いですヨ。
始皇帝が死んだ後の動乱の話で、主な参考資料は司馬遷の史記?
どの登場人物も詳しく生き生きと描かれていて、シバリョー先生は、紀元前200年頃の中国をホントに見てきたんじゃないのかと思うぐらいです。
そして意外と(?)「ぶは」と吹き出す場面が多くてやめられません(たいがい劉邦がらみ)
キレちゃいけない場面で劉邦がキレそうになって、名参謀二人が両脇からいっせいに(とは書いてなかったが)劉邦の足を踏んで「キレちゃダメです!」とサインを送る場面などは、もうコントかと。それをシバリョー先生がしれーっと書いているのも可笑しい(オチは怖いけど)
名高い「鴻門の会」も、劉邦の命を助けようとした人や部下の心意気は立派だと思いますが、とうの劉邦がトイレに立つフリをしてそのまま遁走(忠臣置き去り)なんですよ…。カッコ悪ー。
残念なことに、劉邦が逃げたと知った瞬間の張良(置き去りにされた人)の心理の描写はありません。
張良は、劉邦がもっとも頼りにした作戦参謀です。楚との戦いでは、つねに劉邦のかたわらにあり、なだめたりすかしたりもしてきた人です。たぶん、張良がいなかったら劉邦は天下をとれなかったでしょう。
張良は、礼節をわきまえ論理的に思考する人間(=張良)の予想の右斜め上を行く、劉邦の行動に唖然としたんじゃないかなーと思います。ついで、劉邦がこの場から逃げるのは正しい判断だと思い直したので、自分は失礼のないように場を取り繕ってから退去したんだと思います。脊髄反射で常識にこだわらない決断が出来る人物こそ乱世で天下を争う器だ、とても自分にゃ真似できない、つか自分はあそこまで阿呆なこと出来ないな、と驚嘆しつつ、さぞ呆れたのではないかと。冷や汗をたっぷりかきながら。黙って尻ぬぐいしながら。
天然入ってる上司にふりまわされる、賢い部下って構図は萌えるー…。すげー萌える…。
他にも、後方支援担当の蕭何、謀略専門参謀の陳平って参謀たちと、名指揮官の韓信って人が仕えてます。が、劉邦とのやりとり(なだめすかし)の多さ、時々やりこめてるって点でも張良がいちばんだと思います。
ですが、張良の描写でちょびっとつまづきました。
張良って、よく読んだら超お耽美キャラではありませんかっ
曰く、貴族出身で物腰が上品、女物を着せたら美少女で通りそう、だが暗い情念を胸に秘めていて、病弱、そして天才肌の軍参謀。
ここまでくると美味しすぎて罠じゃないのか、と疑ってしまい、「史記」を買ってきました。シバリョー先生が、張良をお耽美キャラに作り込んだのではないかと、そう疑ってしまって。
わたし(=司馬遷)はその人を、かならずや壮大魁偉な人物と想像した。しかるに彼の図像を見るに及んで、その風貌は婦人美女のようであった。
『史記〈4〉―世家〈下〉 (ちくま学芸文庫)』司馬遷 小竹文夫・小竹武夫訳
出典があった…
病弱って記述もちゃんとあった…
事実は小説よりも奇なり、ってヤツでしょうか。
腐女子の腐り切った妄想よりも恐るべき真実よ…。とかラヴクラフトちっくな表現が思わず口に。
負けた。
ですが、わたしは何に破れたのでしょうか。シバリョー先生か。司馬遷か。
それとも素の素材の力に対し(また)考えすぎて自滅したのかーっ。
そんな訳で(?)キレモノ部下(美形)が苦労して天然上司の世話を焼くカップル(?)大好物さんには激!オススメです………。
ただ、年齢を計算してみるなら、物語中、劉邦は50歳前後、張良は40代としか思えないのです。紀元前に40代男性が婦人美女のようって、そうとう無理があるような気がしないでもない。
司馬遷が見た肖像画ってのが何歳頃の張良の肖像画なのか不思議に思います。なんとなく天下定まってから後に描かれたと思うので、下手すると50歳頃の肖像画だったり…? それで婦人美女のようって、バケモノ…?
あと、シバリョー先生は劉邦をボロクソに描いているようで、ただ一点、ほかの欠点を補ってあまりある美徳があるんだ、と褒めています。が、史記の劉邦の伝記を読むと、その美徳を、晩年失っていたように思えガッカリした…。