『弥次喜多inDEEP』

弥次喜多 in DEEP 廉価版 (1) (ビームコミックス)

　怖かったよーオカーサーン！オカーサーン！ー怖かったよーオカーサーン！

　いえね、映画版を見る前に予習をしておこうと思ったのです。おあつらえ向きに廉価版が発行されてたし。
　弥次喜多って、十返舎一九でしょ東海道中膝栗毛でしょ。江戸時代の庶民は滅多に旅行できないから、東海道を旅してお伊勢参りに行くのが一生に一度級のとびっきりの大旅行で。それをしりあがり寿が漫画にしたのね。（表紙を見て）この二人で旅をするんだね。きっとハリウッド映画でいう「バディもの」みたいな感じかな。「銀河鉄道９９９」みたいに、行く先々で違う文化と出会うのかな。誰かが完結したって言ってたけど、お伊勢まで着いたのかな。９９９みたいに着いたあとはあっという間だったりしたりして。
（わくわくしながらビニールを裂いて読みはじめる）
　コワイよー！オカーサーン！オカーサーン！
　取り乱してスミマセン。
　絵の怖さと話の怖さが一致していて効果倍増なのですもの。
　バイオレンスな場面の絵の黒さはナニゴトでありましょうか。コワイ。ぶれたかのような太く荒い線で描かれたキャラクタの、陰影の多い顔の中に、目だけがギラギラしているのがコワイ。人の顔が左右対称ではなく、ナナメに歪んでいるのがコワイ。当たり前のように出てきまくる凄惨な死の場面とむごたらしい死体がコワイ。おクスリをキメた鳥さんがコワイ。鳥さんの目がコワイ。
　でももっともっとコワイのは、チラシの裏に描く落書きよりももっとまとまりなく、電話しながらぐりぐりやる落書きに近いようなユルイ線の中に顔が浮かんでいる絵（弥次喜多 in DEEP 廉価版 4 (ビームコミックス)の表紙とか）が最狂に怖かったー！オカーサーン！オカーサーン！
　…取り乱してスミマセン。こういうユルくてコワイ絵を描ける人こそ天才なんじゃないかと思うのですがですがですが凄いと思うけれどさわると狂気が染みてきそうでイヤン。
　そう言えば廉価版の版型もヘンですヨ。
　廉価版１・２巻を先月買って、そのヘンまでは悪夢じみた怖さと同じぐらいの比率で、はかなくさびしい美しいイメージが含まれていて、ああ、いいなあ、いいなあ、としんみり思ったのでした。
　昨日書店で続きを探したところ、１・２巻の２倍の厚さの３巻と、３倍の厚さの４巻があって、なにかいやあな予感がしたのでした。最初は些細だった歪みが、爆発的に増大して行くのを目の当たりにしたような。買ったけど。

　廉価版１・２・３巻までは。
　ヤジさんキタさんは道中で、多くの不条理な出来事に遭遇します。不条理は、しばしば死と関係があります。幸薄い生涯を終えて逝く人の、なにもかもあきらめた透明な微笑み、ヤジさんキタさんの、彼（彼女）へのさりげない気遣い。バイオレンス場面の黒さとは対照的な描き込みの少ない画面は静かな光にあふれているように見え、まぶしく淋しい気持ちになります。個人的な話ですが、お世話になった先輩（まだ５０前だった）のお葬式の帰り、空を見上げたらぴかぴかにまぶしい薄い水色の空だったのを思い出すのです。（「蓮と石段」）
　キタさんは死への共感性が強いのでしょうか？（霊媒体質なのかも）
　にぎやかな場所から離れひっそりと立つ、淋しくはかなく美しい死者をよく見つけ、淋しさと諦念をくみ取りやさしく寄り添います。（「桜の宿」）
　この辺までは、ああ、いいなあ、と思っていました。
　廉価版３巻には「晩餐」という日野日出志遺伝子が入ってるみたいな？絵の怖さとだんだんテンパッてく雰囲気がシンクロして効果絶大のめッちゃめちゃコワイ話もあったけど、まだ、まだ大丈夫だった。
　ところが。廉価版４巻の怖さと言ったら…！オカーサーン！オカーサーン！
　霊媒体質のキタさんのたどった道も、生命力に恵まれたヤジさんのたどった道も超コワイ。黙示録の戦いが始まってしまうのも超コワイ*1。陰と陽が凄惨な戦いの果てに一つになり（闘争と愛し合うことが区別し難くなるのも超コワイ）、その後に宇宙創造が起きてる…ように見える。
　お伊勢さんってのはそんな凄い所なのでしょうか。庶民の夢、一生に一度の胸のすく大旅行じゃなかったのですか。ヤジさんキタさんがそこに到達することは、世界のありようを左右することなのでしょうか。勘弁して下さい。もうお伊勢さんなんか見たくないです。最初の方の少しふしぎで可笑しくて淋しい話をずーっと読んでいたかった。ああ、鳥さんの目が！目が…！オカーサーン！オカーサーン！
　本編の漫画が１話終わるごとに、２Ｐのオマケ外伝？漫画が挟まっているのですが、廉価版４巻ではそれまで壊れていました。乱丁かと思ったヨ。てか乱丁のほうが良かった。

　ホントにひどい目にあいました。
　でも、また読み返しちゃうと思う……

*1:原作デビルマン？とかゆってはダメかしら