『SWEET三国志』--天才軍師はツッコミ待ち。

SWEET三国志 (1) (MF文庫)

SWEET三国志 (1) (MF文庫)

 麻雀漫画で高名なあの方の三国志
 昨年、文庫版で復刊されました。全3巻です。*1
 絵と、ギャグの方角が人を選ぶかも知れません。
 でも、ツボにはまるとテンポの良さとギャグ乱打でタイヘンな事になるのでどうかお気をつけて。
 ギャグでたたみかけてくる漫画って、漫才用語?で「あたたまる」とか言う状態に近いのでしょうか?読むのにノッてくるともう最後は何を見ても笑える入れ食い状態になってしまってタイヘンです(腹筋が)
 ギャグなのに意外と原典(三国志演義?吉川三国志?)に忠実です。尺の都合で飛ばしてるエピソードも多々ありますが、それは仕方がない。
 ギャグは…、野暮ですけれども言葉で説明するなら、時代考証無視、セリフの現代語訳、漫画的に誇張した人物表現&キャラ立て、時事ネタ、でしょうか。
 時事ネタは難しかった…連載当時の時事ネタなものだから、うっすらと、ああアレかなぁ、的なまことに頼りない反応でゴメンサイでした。連載してた年とつき合わせて感慨にふけりたかったのですが、文庫版には初出が書いてなくて欲求不満です。90年代前半に連載してたんじゃなかったかなあ…(自信なし)
 あと、競馬を知ってるともっと笑えるのかも知れません。
 (あ、時事ネタも競馬もわからなくても問題ないですよー。もったいない感じがするだけで………く、くく悔しい。)


 で。主人公は(たぶん)劉備玄徳なのですが、こいつがまた「ドラえもん」ののび太くんを更に過激にデフォルメしたような、小さくて丸くて弱っちいヤツで。でも好き。
 後半は孔明が主人公の座を奪ってますが、この孔明がホントどうしようもないヤツで。
 ほっぺに渦巻きが書いてあって、アイシャドーしてて、鼻に何故か「吹き戻し」がついてて。クールでドライで計算高くて、そりゃアンタ計算としては合ってるけども人としてどうよ!?的なダークな策をサラリと口にしたりとか。でも大好き。
 (『SWEET三国志 (3) (MF文庫)』の表紙が蜀です。『SWEET三国志 (2) (MF文庫)』は呉です。)
 孔明だけじゃなくて同門の軍師にもその傾向が見られますが、シリアスな会話になると、変なギャグかましてスかすのです。しかもつっこんで欲しそーなボケ? 常に相手のペースを乱して会話の流れを自分有利に持って行こうとするのは軍師の習性なのかも知れません?
 でも今回、最後まで読んで意見が変わりました。この孔明、照れ屋さんなんじゃなかろうか…。あっ、お客さん、帰らないでッ!?
 ややネタバレかも知れませんが、玄徳と孔明は年が20ぐらい離れていて、主人公の代替わりは必然なのです。玄徳が死の床で孔明に後事を託すのは名場面の一つなのですが…この漫画ではいつも通り?孔明ボケ玄徳ツッコミでぽんぽん会話が進展するなあと思ってたら、玄徳がシリアスな問いかけをしたとたん孔明黙っちゃうのよ。舌先三寸で天下を踊らせた男が。テンポが命のこの漫画で。
 そして主君に背を向けて、はずかしそうに、ギャグっぽく答えるの。も、ももも萌えたっ。
 孔明のボケに最後のツッコミをせずに劉備は逝く。
 その後は、作品自体のギャグのテンポは相変わらずですが、孔明はあまりはなはだしいボケはしていないように見えます。まわりが若い部下ばっかりのせいか、あんまりビシリとつっこむ人もいないし。玄徳の遺児、バカ殿で名高い劉禅はどっちかというとボケに回りつつ、シリアスな場面では馬鹿ゆえのまっすぐな意見を吐き孔明をたじたじとさせます。
 連載上の事情があったとも聞きますが、玄徳退場後はひどく慌ただしい感じがします。
 その慌ただしさ、ギャグに於ける立ち位置の変化とが、孔明の余裕のなさ(玄徳の生前には憎たらしいほど余裕ありすぎだったのにー)を感じさせ、ハイテンポな不謹慎ギャグまみれなのに、孔明だけは淋しそうに見えたのでした。
 ハイテンポすぎアッサリしすぎ、つかむしろ楽しそうでネタを引っ張る気なんか1ミリもなかっただろ?的な最後の姿に、
 つっこんでくれる人もなく、亡き殿の残した(弱小)国家と宿願を一人で背負い込み奮闘し続けた10年余は、淋しく辛い日々だったのだろうなあ、と思ったのでした。



・追記
 押入から古いコミックス1〜4巻(ほんとうは全5巻)が出てきました。
 それによると、
 掲載誌:ヤングマガジン増刊海賊版
  1話  1992年第3号
  36話 1995年第3号
  (1992年第8号は休載)

*1:旧版が絶版した後に知り、探しまわった末に古本屋で4巻セットを見つけて購入して…つまり最終巻がなくてねえ…探しても見つからなくてねえ…(遠い目)