『邪神帝国』--ナチスだもの。

邪神帝国 (ハヤカワ文庫JA)
 クトゥルー・ナチス・日本人作家*1とこれだけで芳醇なキワモノのかほりが。
 とても面白いのです。目眩がするほど。耳からアドレナリンだかエンドルフィンだかを高濃度に含んだ腐った髄液がぼたぼたと出てきそうなほど。
 なにしろ宇宙人とかオカルトとか、ソレ系に真顔で手を出してそうっつったら、1にナチスに2に米軍だと思います。イメージ的に。*2
 そもそもナチスとオカルトは相性が良いわけですから、そこにクトゥルーが混じってたって何も問題がないような気がします。ラヴクラフト先生が活躍したのは1920代〜30年代初、ほぼ入れ替わりにナチス台頭ですから、時系列的には矛盾してないし。
 わたしは生ハムメロンは反対派です。イチゴ大福は懐疑派です。美味しい物を合体させたって美味しさ2倍にはならないと思うのです。別々に食べた方が美味しいと思うのです。ですが、この作品は「とてもおいしい生ハムメロン」だと思います。ぜひお試しあれ。


『1889年4月20日』
 もっとも感銘を受けた作品です。
 切り裂きジャック・ゴールデンドーン・ニャルラトテップの三題話。ナチスと関係なさそうで、あるんだなー。わたしはこれらを関連づけてしまう作者の奇想に感嘆しました。


『狂気大陸』

 そして、もし、この記録を手にしたあなたが、栄光あるドイツ軍人であるならば−。
 我が軍の全力を傾注して、狂気山脈の裏側を完膚なきまでに、爆撃し、焼きつくすべきだと、わたしの意見を具申しておく次第である。

 狂気山脈のふもとでショゴスを相手にドイツ国防軍がドンパチ。ラヴクラフト作品の登場人物の息子と思われる人物が登場しているのも、ちょっとうれしい。


『ヨス=トラゴンの仮面』
 ナチス政権は一枚岩ではなかった。高官たちは、互いを出し抜こうと裏で熾烈な戦いを繰り広げていた。魔術で。←無茶にも程があると思いつつも、燃える設定だと思いま〜す(頭悪そうな口調で)。
 ユダヤ人街廃墟で、年経た魔導師、ヒムラー配下の女スパイ(ルーン魔術)、日本陸軍のスパイ(拳銃)、ルドルフ・ヘス(ロンギヌスの槍)&配下の軍人さんがバトる訳です。燃えます。
 中でもヘスのロンギヌスビーム(蛍光ピンク)が気に入りました。腹がよじれるほど笑いました。格ゲー的映像がありありと幻視されてしまいました。
 あと、朝松先生の狂気ポイントは「異形の醜悪なクリーチャーの、目が澄んで知性をたたえている」なのかな、と思いました。


『"伍長"の自画像』
 注釈に↓のような事をしれっと書いていてしびれた。

注2 <星智教団>なる活字が
(前略)同結社は設立当時からバプティスト派の神学者などから非難されていた。また、1846年頃よりO∵S∵W∵(=星智教団)本部のあるロードアイランド州プロヴィデンスでは行方不明者が続出。同結社の”血の供儀”の生贄に供されたのでは、という憶測があとを絶たなかった。そのため、1869年にはプロヴィデンスはフェデラル・ヒルの旧フリーウィル教会に設けられていた本部をアイルランド人の暴徒が襲撃する、という事件が発生した。(後略)

*1:いえ、決して日本の作家さんを馬鹿にしている訳ではなくて、クトゥルーもナチスも欧米ネタだし大丈夫かなあ、と、そうゆう意味です。

*2:今の悩みは、3に何を割り振ろうかなあ、と言うことです。旧ソはなんだか疎そうだし。根拠ないですけど。個人的には、水を石油に変えると称するペテンに引っかかり、パイロットの適性を判定するために手相見を雇った山本五十六を挙げたい所ですが。ちょっとマイナーかしら。