『あなたの人生の物語』--くるりと輪になる物語

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 そのスジでは評価の高いこの人の作品をはじめて読みました。今頃。
 やっぱり素人が語るのはおっかない気もしますが、いたく感動したので少し語らせてください。






◆表題作「あなたの人生の物語」
1。成長していく娘を見つめる母親の優しいまなざし、心地よい訳、それだけですでにクリティカルヒットなのに、
2。その上、AパートBパートが交互に展開し、ラストで両パートが交差するテクがキレイに決まって素材の良さをさらに引き立たせ、
3。とどめに物語が2の手法で語られるのに必然性があることが明かされ、
 私はもう降参するほか。降参。降参。
 誰の視点で語られるかとか時間の流れをどう切り取るかどう並べるかとか、そういう物語の構造っての?って小説を書く人が効果を考えつつ選択する事柄で、つまり物語の外、作中のキャラクターのあずかり知らぬところで決まる事柄だと思っていた。ので物語の内で構造が指定されていると分かり、その驚きに飲んでいたビールが気道に入り死ぬかと思いました。
 いや、あの、その、そんな個人的なことは置いといて。
 この日記を書くために読み返したのですが、フェルマーの原理は再読しても理解不能でした。そんなことはどうでもいいし、別に悔しくもなんともないのですが!(本当です!)
 それよりも、現在はいつなんでしょうね? AパートBパートの文体を見比べて考えているうちにぐるぐる回って、、、ああ、ビールが飲みたい。*1



◆「顔の美醜について」
 美醜失認処置が一般化された世界のお話。
 この処置を受けると、人間の顔の美醜が分からなくなるんだそうです。表情も読める、人の顔の区別もつく、でも美人に見とれることも、ハンサムに会ってぽーっとなることはなくなるそうで。この処置を解除することも、再処置することも個人の意志でできる。
 そんな事ができるようになるには、脳のごく一部のニューロンの活動をブロックする技術(しかも可逆的)と、ニューロンの詳細なマップが分かっていないとダメなんでしょうね。SFだSFだ。
 ある人々は、外見の善し悪しでの差別があると主張し、みんながこの処置を受ければ、純粋に中身だけで勝負ができる平等な社会になる!と主張します。またある人々は、コマーシャルの美男美女の効果が減るから(?)なんだかんだと理屈をつけて反対します。(すごく乱暴な要約)
 でも、ん?と思った。
 三次元の美男美女ばかりが問題になっていて、二次元の美男美女にはほとんど言及されてないんですよ。二次元萌えキャラを飛び越して、モナリザがどうとか芸術の話になっちゃうんだなあ。作者のチャン先生は、二次元コンプレックス(の存在)は全く脳裏に浮かばなかったのでしょうか。ちくしょう、腹が立つほど健全じゃないか。じたばた。
 三次元ハンサムに見とれるよりも、二次元キャラに見とれる時間が圧倒的に長い私なぞがこの処置を受けるとどうなるのかなー。などと空想しているうちに、怖い考えになった。
 「二次元キャラを見て萌えるニューロンがどこにあるか分かりました!このニューロンをブロックすれば二次元キャラに全く魅力を感じなくなります!漫画やアニメを見ないで暮らす限り副作用は全くありません!」
 「うちの子がオタクにならないように処置受けさせなきゃ!」

 「眼鏡という記号に反応するニューロンも分かりました!」

 「黒髪+長髪という記号に反応するニューロンも!」


 ギャー!

*1:うーん、月明かりのパティオが現在?なんて無粋なことを考えるよりもぐるぐる感を楽しむ方が正しいような気がいたしますが。