城山三郎『辛酸』

 買ってきた城山三郎本をぱらぱらと拾い読みしています。
イマドキの、ワープロやパソコンで書かれた文章とは違う、紙に手で描かれた文章だと思いました。シンプルで短いってコトです。偏見かも知れません…
 昔は、綿密に取材された経済小説だったり歴史小説だったりする面にばかり目が行っていましたが、けっこうキャラ立ちしてるし、場面展開もけれん味あったりして、単に小説としても面白いような…気がする?
 まずコレ、「辛酸」(ISBN:404131013X)。中学生の頃、読書感想文の課題にムリヤリ読まされて苦しかった思い出が。*1
 …あれ、今読むとけっこう面白い。ような。
 田中正造が70歳近く、既に国会議員は辞めて、財産も全てなげうち、もう谷中村でのたれ死んでやる!とちょっと(いやかなり)クレイジー入ってるあたりから物語が始まります。
 正造って、「聖なる狂人」って感じだったのかなー。普通の、常識に縛られた人が言いたくても言えないことを大声で言っちゃう人。今よりも偉い人とそれ以外の差が厳格にあった時代の追いつめられた庶民は、正造が演説会で吠え、元勲や役人をぼろくそに言い、「弁士注意!」と叫ぶ怖い警官をにらみ返すのを見て胸がすっとするわけです。
 後半は、前編では田中正造の付き人(?)の青年であった宗三郎が主人公らしいです。宗三郎は、正造に比べると、頭が良く理性的で、狂気度が低い感じがします。聖なる狂人と、聖なる狂人に導かれた常識人の奮闘。そんな一粒で二度美味しい物語だったのかこれは!
 なんてことを、冒頭40頁ぐらいと解説を読んで思いました。
断っておきますが、上記はわたしの妄想であり、城山先生はおそらく違うことを描きたかったんじゃないかなーと思います。
 なんてことを断るぐらいなら最後まで読んでから感想を書いたらいいのになあと自分でも思います。ごめんなさい。

 なんて思わず「辛酸」について語ってしまいましたが、いちばん欲しかった「男子の本懐」(ISBN:4101133158)は売っていませんでした。ガッカリ。巻末の紹介を見ると「<金解禁>を遂行した浜口雄幸と井上準之介。性格も境遇も正反対の二人の男が、いかにして一つの製作に生命を賭したかを描く長編。」だそうで、なんつか、意外と腐女子的にもツッコミ所の多い作品だったりしないか(失言)…じゃなくって、こういうのを見ると銀河英雄伝説のポプランとコーネフを思い出すって言うか、そう言うのをこよなく愛した相方は元気にしているかなあ、と思う。

*1:理由:田中正造はほぼ唯一の地元の偉人だったので。