『新訂版コナン全集2 魔女誕生』--父祖なる物語
- 作者: ロバート・E・ハワード,宇野利泰,中村融
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/12/09
- メディア: 文庫
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若く美しく慈愛に満ちた女王の寝室に深夜、女王と同じ顔に邪悪な笑みを浮かべた女が訪れる訳です。
「姉さん!」
「わ、私に妹なんかいないわ!」
きっと不吉だとかなんとか言われて赤ん坊の頃に捨てられた双子の妹なんだろうな、と思って読んでいると、そうでした。
復讐のために、魔女になって帰ってきたんだろうな、と思って読んでいると、そうでした。
入れ替わるんだろうな、と思って読んでいると(ry
万事そんな感じで、はじめて読むのにとても懐かしかったのです。
ヒロイック・ファンタジーの祖、コナンシリーズは、蛮人コナン(職業:バーサーカー/Lv99)を主人公にした短・中篇連作シリーズです。
全集1を読んで意外に思ったことは、コナン以外のレギュラーキャラがいないと言うことです!
だいたい部下と同僚は全滅、敵武将はコナンが殲滅します。
レギュラーキャラと主人公との相互関係が存在し得ないので、腐った者にはちょっと喰い足りな
いいえなんでもありません!
コナンは女好きで、また女性にモテます。
しかしヒロインはどんなにおいしいキャラでも、1回限りのゲストです。
クエストが終わると、高い確率でコナンは旅立ってしまうからです。
また、全集2巻に収められた作品の半分ぐらいでは、コナンが主人公であるとも言い難い印象を受けました。
例えばです。
悪の魔法使いの大軍勢が王都に迫っています。
王都陥落も時間の問題となり、決断を迫られた若く美しく勇気ある王女は、忘れられた古い神に祈りを捧げ「深夜町に出て、最初に出会った男に全てをゆだねよ」との神託を受けます。
「どんなならず者に行き遭うか分からない」と反対する侍女をふり切りひとり町に出た王女は、まあ、コナンと出会うんだろうな、と思って読んでいると(ry
かように、危機に直面して勇気と信念を試されるのはゲストキャラの方で、(彼らの勇気と信念に感じ入った神が遣わしたかのように)現れたLv99のコナンが絶体絶命と思われた状況をひっくり返す訳です。そしてクエストが終われば去ってしまう。
伝説的な大勝利をもたらし国家の危機を救った英雄ならば、勝利の後に多くの人から讃えられるでしょう。
蛮族から、一気に重臣になれるかも。貴族になれるかも。大公になれるかも。
なのに勝利がもたらす富を決して受け取らず、爵位を引き受けず*1、持ち物と言えば腰に下げた大剣ひとつで、作者の夢想した超古代の大陸を移動しつづけるコナンのイメージを思うと、生身の人間よりも伝説に近しいものに感じられます。
そしてLv99のNPCコナン、が脳裏に浮かび………
これは、呪いなのか。
ファミコン期FF直撃世代が受けた。
天涯孤独の蛮族から王になった男の物語だと聞いていたので、もうちょっと成長要素がある物語だと想像していました。違ったなあ。
それとも次巻以降、若くて未熟なコナンや老いたコナンの物語も読むことができるのでしょうか。
なんかLv99以外の状態を想像できないのですが。
絶対無敵、葛藤は少なく、男は殺す女は抱くのシンプルな行動原理を持つコナンを中心に据え、水戸黄門的な繰り返しパターンを保ちつつ、それぞれの物語はバリエーションに富み読者を飽きさせないというのは、たいへんな力量ではないでしょうか。
なにかこう「新しいものの方が優れている」という変な先入観があったので、70年以上前の物語がいまでも面白いというのは、新鮮な驚きでした。
著者の夭折が惜しまれます。
巻末にはラヴクラフト先生の手による追悼文が収録されています。
国書刊行会のラヴクラフト全集に載っている追悼文の、ロングバージョンとのことです。
*1:しかし高貴な姫のハートは盗んで行くかも知れない