『スローターハウス5』
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1978/12
- メディア: 文庫
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わたしの師匠は、仕事の師匠であってSFの師匠ではないのですが、師匠に言わせるとわたしの選ぶ本と映画は趣味が悪すぎるそうで、わたしは叱られてばかりです。
曰く、「お前の言うSFはSFじゃない、スペオペだ!」
もちろん仕事でも叱られてばかりです。とほり。
(だけど、わたしは師匠が言うほど自分の本と映画の趣味は悪くないと思っています)
「屠殺場5号(旧版のタイトルらしい)は」
わたしの師匠は、次のようにわたしを誘惑しました。
「第二次世界大戦だよ」
「ドイツだよ」
「宇宙人が出てくるよ」
購入決定です。
読み終えた今、騙された気持ちでいっぱいです。いや、面白かったですけれども。
なんだか頭が悪いとしか思えない登場人物たちが右往左往してて、話があちこち飛んで、悲しいことも腹の立つことも膜一枚隔てたような鈍感な感じで書かれています。さらに脱力するユーモアがまぶしてあって、悲しいよりも腹が立つよりも先に、笑える。笑えるんだけど、じわじわと悲しい。悲しいだけならいいんだけど、馬鹿で鈍感な主人公の代わりにこちらの心にダメージが来ているようで、なんだか割に合わない思いがしました。
3分の2ぐらいまで読んで、お馬鹿な小説だなあと思って中断していました。
きょう、最後まで読んで、主人公は、馬鹿で鈍感なんかじゃないと、ようやく気がつきました。
そして解説を読んで、すさまじく高名な作家のすさまじく高名な作品と知ってすっかりビビってしまいました。
途中までお馬鹿小説だと思っていたことは、師匠に黙っておこうと思いました。
ところで、うちのATOK16で「屠殺」という字が出ませんでした。
塗擦しか出ない。塗擦なんて言葉、使ったことありませんです。辞書を引いて、はじめて意味を知りました。
(話はそれますが、変換されない時は、読み方を間違えていないかチェックした方がいいです。わたしは、それで一度、大恥をかいたことがあります)
なんだか、ATOKの辞書からこっそり削除されている言葉があるような気がするのです。
それは手塚治虫漫画全集などの巻末で、「あえてそのままにした」と注意書きが附されるような分野の言葉ではないかと思います。