『爆撃聖徳太子』

爆撃聖徳太子 (ハルキ・ノベルス)

爆撃聖徳太子 (ハルキ・ノベルス)

 時は崇峻三年。西暦590年。
 北九州の海岸に、大陸からの難民が続々と押し寄せる。
 海の向こうからなにか良くないことが来るに違いない。きっと。
「いったい、海の向こうで何が起きたのですか?」
「統一されたのです。いえ、征服されてしまったのです」
 新国家の名は、随。
 隋という巨大な餓えた龍は、中国大陸を飲み干し、さらに近隣諸国をも呑み込もうとしている。
 手始めに、琉球王国
 ところが。
 その地に気のふれた倭の皇子が滞在しているという。
 朝廷に三万の軍の要請をしたという。まさか、地上最強の帝国と戦うつもりか?
 蘇我蝦夷がわめく。
 「ヤツが何かおかしなことをしでかす前にとっつかまえるんだ!
  いいか!常に最悪を想像しろ!ヤツはその右斜め上を行く*1
 なりゆきで厩戸<基地外>皇子とっつかまえ隊に編入され、琉球で隋の大軍と鉢合わせしちゃった小野妹子の明日はどっちだ!


 すっごく面白かったです。
 最初の琉球編からmyハートはすっかりガッチリ虜です。
 超大国隋の侵略前夜の緊迫感とたたみかけるような勢いの物語進行がシンクロしてページをめくるのがもどかしかった。
 そんでテンションのピークで(満を持して)厩戸皇子が登場します。
 期待を裏切らぬ変な人っぷりでした。
 登場した瞬間に「ぶは」と吹き出す度では、京極夏彦のシリーズの榎木津に匹敵すると思いました。ってそんな説明で通じるのでしょうか。
 たとえばっかりでアレなんですが、『レベルE』のバカ王子系の厩戸皇子が、フツーの常識人の小野妹子を巻き込んで振り回してもみくちゃにする(読む方は妹子に同情しながら読む)というアホな物語なのに、それ以外のところが意外と(すみません)まともで驚き、大いに楽しみました。
 戦争の場面が読ませます。ありありと目に浮かぶようでした。超大国の侵略にあらがう小国の意地がキッチリ描かれていて美しいの。琉球侵攻戦は、王国の壊滅と、再生の予感が綴られていてついでにボーイ・ミーツ・ガールだったりして、物語として端正だと思いました。遼東城籠城戦は熱かった。乙支徳将軍の騎馬突撃に涙ぐんじゃった。
 それゆえ、圧倒的な武力で小国の意地と誇りを踏みにじる隋の煬帝が憎ったらしく思え、「奇」の力で超軍事大国を手玉に取る厩戸皇子の活躍が痛快に思えたのでした。
 不覚にも。


 購入にあたり、とッても参考になった感想。
 id:asagihara:20050104#1104879564

*1:ここは嘘です