『緋い記憶』

緋(あか)い記憶 (文春文庫)

緋(あか)い記憶 (文春文庫)

 いまふたたびの高橋克彦ブーム!(わたしのなかで)
 思えば、普通に(?)浮世絵殺人事件シリーズから入ったのに、次に『竜の柩』を手に取ってしまったのが運のツキでした。だって『竜の柩』って乱暴にヒトコトでまとめるなら「古代超文明は宇宙人が伝えたんだ!だって宇宙人の姿は神話のかたちで現代に伝わってるじゃん!みんな常識で目が曇ってていかんよ〜」ってトンデモ伝奇SF*1だったので…。
 浮世絵殺人事件シリーズとのあまりの隔たりにしばし呆然としたのですが、謎の解き方は浮世絵殺人事件と同様の文献+フィールドワークの地道な方式だったので、なるほど同じ作者の作品だ、とちょっぴり納得したのでした。
 しかもですよ、エッセイや対談集を読む限り高橋氏はマジらしいのです。何がって神=宇宙人説が。そう言えば浮世絵殺人事件シリーズでも急にUFOの話が出てきて変だと思ったんだ…。
 でも『竜の柩』はホント面白いですよー*2
 小説としての面白さはもちろん、ぶっ飛び具合も愛おしいです。
 続編『新・竜の柩』は更にぶっ飛んでおりますます惚れ込み、半歩引いたのですが、この衝撃は(ネタバレせずに)どう説明したらいいのでしょうか。*3
 更に続々編『霊の柩』という作品もあって、さらに彼岸へと踏み込んでいると言う話です。なんと申しますか本当にチキンで申し訳ないんですが、古代超文明も宇宙人も大好物なんですが霊的進化がどうのこうのと真顔で言われると、一歩引いてしまいます。*4
 それから大河ドラマの原作も何回か手がけていますね。東北が田舎だという概念は征服者大和朝廷による歴史改竄の結果である!という恨み?は「竜の柩」とも共通するムードなので分からないでもないかも…でもこっちはあんまり読んでませんゴメンナサイ。


 で、えーと、『緋い記憶』なんですが。
 ただでさえ引き出しが多すぎて全体像をつかみにくいのに、さらに混乱を深めるかのように上記とはまったく違う雰囲気の作品です。
 ホラー短編集なのですが、いいんだー。
 作者氏は子供時代にいい想い出がいっぱいあって、今でも子供時代のいい想い出を語り合える仲間がいっぱいいるんだろうなあ、とほんわかした気持ちになります。*5 でもホラーなんですけど。
 7編中5編は、子供の頃のおぼろで断片的な記憶を大人の目で再確認するって所からはじまります。こどもごころに不思議に思った出来事も、大人になって振り返ると「なぁんだ」となったりする訳で。
 懐かしさと、当時に理解できなかったのを取り返すかのように主人公は記憶の中の「あの場所」探しに熱中し…、まあ、ホラーって時点でだいたい見当ついちゃうと思いますが、魅力的な話題と謎が解けていく快感に熱中して読みふけっていると、トン、と恐怖に突き落とされる、そのタイミングの妙に、分かっているのに次が読みたくなるという。
 また、恐怖は遠く非日常にあるんじゃなくて、「身近な」所に「既に」あって、今まで知らずに恐怖の隣でのほほんと暮らしていたのか、と肌に来るゾーッとする感覚。いや、身近どころか血の奥底にあったりとかもするわけで。
 それがラヴクラフト作品のいくつかと通じる種類の怖さに思え、だから高橋氏に神話を書いて欲しいなあ、とちらっと思ったりしたのでした。


柩シリーズ(新書版)
竜の柩 (ノン・ノベル)』→『新・竜の柩 (ノン・ノベル)』→『霊の柩 (ノン・ノベル)
 読む順番は間違えないでね。とのことです。
 文庫版では、無印・新が合併されて「竜の柩」のタイトルで全4巻にまとめられています。1巻2巻が旧「竜の柩」で、2巻3巻が「新」の内容みたいです。文庫版は、巻頭にちゃんとした地図が載ってて便利そうでした。(新書版には地図がついてなくて不便だった)


 しかしなにゆえにコマゴマと書いて宣伝しちゃってるんだろう…?

*1:と要旨?を聞くと唖然としちゃうと思いますが、読んでみると、物語のドライブ感との相乗効果でけっこういい感じに騙してくれるのです。ってか手の込んだ嘘で巧みに騙されるのが楽しいってはじめて思った。

*2:とだけ書いてどう面白いのか書かないのは不親切だと思いますがそれはまた別の日に

*3:個人的にいちばん近い体験はホーガンのある有名シリーズ2作目で「えっ、つれて来ちゃったんですかッ!?」とびっくりしたのが…ってほとんどネタバレです…スミマセン。

*4:そこら辺で高橋氏の作品からちょとと離れていたのですが、先日書店で『霊の柩』文庫版を見つけ、懐かしくて手にとって見たところ上巻が「心霊日本編」下巻が「交霊英国編」と題されていて、気圧されて棚に戻してしまいました。でも、新書版が押入から発掘されたので観念して読もうかなあと思っています。

*5:そしてほのかなマザコンのかほりと性のめざめ。