『エンダーのゲーム』

エンダーのゲーム (ハヤカワ文庫 SF (746))
 濃ゆいジャンルの超有名作品なので、感想を書くのはとても勇気がいることだなあ。
 未来。人類は異星人と出会った。
 2度に渡る侵略をかろうじて撃退したものの、この次がないとは誰にも言い切れない。来るべき3度目の侵略戦争に備え、指揮官を育成せねばなるまい。人類の存亡を賭けた戦争に、絶対勝てる天才を捜すのだ。
 かくしてエンダー少年(美少年に違いない)は6歳にして才能を見いだされ、バトルスクールに入学することになる−…。
 バトルスクールつっても、体力馬鹿を養成する学校じゃなくて戦略眼を養う学校みたいです。ホントに頭のいい子は、ゲーム(=戦争のシミュレーション)において、力と反射神経と運で勝つのではなく、ゲームの構造を見抜いた上で絶対勝てる布陣をするんだァ、もっと頭のいい子は、ゲームが設定された意味(=大人の意図)も推測したりするんだァ、とかの話にへーほーと感心しながら読み進みました。
 お定まりの(?)ホントはエンダー少年を気に入ってるんだけど鍛えるためにつらく当たってしまう教官、同級生とのほのかな友情、自分に似た年下のちびっ子の信頼、才能をねたむ上級生などの人間関係も目が離せません。個人的にはエンダーを憎むサイコパス兄(でも天才)とエンダーを愛する姉(やっぱり天才)の微妙な関係が興味深かった。あと、伝説の名将メイザー・ラッカムがなにかカンフーの導師まじってるみたいで面白かった。
 9割がた読み進んで、エンダー少年が異例の飛び級で上級学校に進学してもまだねちねちとスパルタ教育が続いていて、この調子で星間戦争まで終わるのかなあと心配していたら急にパタパタと話がたたまれてびっくりした。このびっくりはクセになります。


 理想の指揮官とは。という話が透けて見えるのですが、日本でのソレとだいぶ違うのでへーと思いました。カリスマ性、うーん、部下が畏れと尊敬と半々でもって見上げる感じ、近寄りがたい感じ、が前面に出てて。日本じゃもっと気さくな感じが受けるんじゃないかなあと思ったりとか。そしてわたしの好みを言うなら昼行灯みたいなのがいい。
 全寮制の男子校みたいなところで、なめられずいじめられず誰にも負けず誰にも頼らずやって行くのも優れた指揮官の必要条件に数えられてるみたいで、西洋文化の中の男の子ってタイヘンだなぁと思いました。*1一般化しすぎでしょうか。将来、学校出たばかりの若い指揮官がたたき上げの古参兵を率いる時に必要なのかなあと思ったけど、いらなかったんじゃないかなあ。(微妙にネタバレ)
 うーん、「先生、一手間違えたのでリセットしてください」とか言うクセをつけないための工夫だったのでしょうか。うーん。うーん。



 本筋から大幅にはずれますが、エンダー指揮下の大人の兵士たち、を想像してゾーッとしました。天才ではあるかもしれないが子供、初対面、の命令に従って死地に向かえるか。わたしなら躊躇する。できれば逃げたいとか思っちゃう。
 指揮をするエンダーの口調は、誰か別の人のために自分の生をあきらめた兵士たちに対する敬意は含まれていなかったのではないか。*2
 ひっどいハナシだと思います。
 大人にだまされ踊らされ2つの種族の運命を変えてしまったエンダー(まだガキ)は、このさき生きづらいだろうなあと思います。
 心配なので続編も読んでみようと思います。

*1:強く賢いエンダー少年がたまに見せる寂しさに萌える小説だと思いまーす。

*2:それはエンダー少年の咎ではありませんが。