『墨攻』

墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)

 漫画版が手に入らないので、こちらを発掘して読み返しました。
 例によっていい塩梅に内容を忘れていたので、楽しめました。
 当然というかなんというか、映画とはぜんぜん違う話でした。
 作者の「あとがき」によりますと、主人公の革離を、誇り高いすぐれた職人のイメージで書いたとのことです。
 直接の原作ではないので比べるのは野暮かも知れませんが、すぐれた職人の格好良さとストイシズムは、映画の革離にはあんまりなかったかも知れません。
 強いて言えば弓隊隊長にこの格好良さがあったかも?


 酒見氏の作品は、どこか淡々としていると言うかひょうひょうとしているというか。透明感があると言うか。そうとうエグイ場面も直接的なエロい場面も平気で出てくるのですが。
 氏のデビュー作の『後宮小説』の選評で、この「軽さ」について評してあったのが、読後感にぴったりくるので感心しました。

 この「軽さ」は軽薄短小の「軽さ」ではなく、重力から逃れてあることの「軽さ」だ。

 この「軽さ」は内閉的な夢を語ることによってではなく、ついに重力から逃れることのできない我々人間というやっかいな存在の運命を直視することによってしか得ることのできない宝物なのだ。

 高橋源一郎氏の評だったと思います。


 個人的には、氏の代表作として『泣き虫弱虫諸葛孔明』を挙げたいです。
 今月、第二部が発売されるという噂ですが、アマゾンのリストになくて困っています。
 クトゥルー分類になっているのは、小説『墨攻』のあとがきでラヴクラフトの『名状しがたいもの』に言及されているからです。