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『ラヴクラフト恐怖の宇宙史』(絶版)

ラヴクラフト 恐怖の宇宙史 (角川ホラー文庫)
 載っている作品が、入手しやすい「ラヴクラフト全集」や青土社の「クトゥルー」シリーズと大部分だぶっているので購入を迷っていました。先日図書館で借りてきて、だぶっていない3編がそれぞれ良かったので、探して入手したいなあ、と思ったりとか。


・「忌まれた家」 The Shunned House 1924
 子供の頃「おばけ屋敷」だとみんなでウワサしていた近所の廃屋を、大人になってから大人の知能で調べたらちゃんと根拠があると分かった。というお話です。
 ↑これだけでワクワクして駄目です。とても面白く読みました。
 まず冒頭の、子供時代の「おばけ屋敷」の思い出が郷愁にあふれていて素敵に思えました。伝記などを読むと、ラヴクラフト先生は孤独な少年時代を送ったようなのですが*1、全くの孤独って訳でもなかったのかなあ、とほっとした気持ちになりました。妄想かも知れませんが。
 後半、おばけ屋敷に乗り込む段になって持ち込んだのが火炎放射器と、クルックス管と特殊なスクリーンと反射鏡で出来た攻撃兵器?です。後者がナンだかさっぱり分かりませんが(ネットで検索したところ陰極線…電子と何か関係があるようだ)、その前段に描写されている敵に関する仮説がSFちっくなのとあいまって…東宝の昔のSF映画が連想されるような…?
 後年の神話系作品と異なり、ラストシーンもなにやらロマンティックで意外でした。


・「錬金術師」 The Alchemist 1908
 主人公の境遇に「アウトサイダー」を連想しました。
 登場する悪者が素敵にトホホ感ただよっててねえ…いいなあ、こういう間抜けな悪者。
 間抜けだけど努力家でね、たしかにすごい業績を上げています。
 でもね、一見すっごい呪いがかかっているようでいて、実はそうでもなかったの。テクじゃなくて根性だったの。ああ、あなたはコレを全部マニュアルでやったのか、と涙が出ました。
 そして長年の努力の報われる瞬間!
 哀れな被害者の絶望と恐怖を深めるべく真相を告げましたが、とろい被害者はポカンとするばかりです。どうやら悪者の説明がヘタクソだったようです。長い仕込みの時間の苦労を、全部語ろうとしちゃったみたいですね。もっと絞って話さないと。単調な語り口も敗因だったと思います。もっと情感ゆたかにメリハリをつけて。
 悪者はいらだち、オチを分かってもらえないよりは野暮をとろうと、今の話のどこが怖かったのかとだめ押しの解説をします。だからぜんぜん怖くないです。
 悪者の感じた屈辱感はいかばかりでありましたでしょうか。


・「廃墟の記憶」 Memory 1919
 見開き2頁で終わるごく短い作品です。が、とても印象的でした。
 ラヴクラフト先生はよく「宇宙的恐怖」って言うんですよ。コズミックホラーとも言います。先生の意図した宇宙的恐怖ってなんだべ?とずっと思っていました。でも、いまさら恥ずかしくて人に聞けません。
 荒俣宏氏の解説によると、この初期の短い作品にも宇宙的恐怖がちゃんと含まれていると。
 宇宙のタイムスケールに比べたら、ひとりの人間の一生はもちろん、人類という種全体の寿命すら塵芥も同然で、真・善・美、知識や歴史などの人間の一生よりは永遠に近いとされているものすら無に等しい、と思い至った時のゾクリと来る感覚。
 なのかなあ。
 とすると、「火の鳥」未来編*2光瀬龍の作品群、諸星大二郎の「暗黒神話*3も宇宙的恐怖なのか…?
 ずっと、そっちよりも↓かと思ってました。
 わたしたちが信仰してきた神はいない。
 実在の神は人類を愛していない。
 いつか神々は戻ってきて、増長した家畜=人類を雑草でも刈るように駆逐するだろう。
 (だから善い神様とか出しちゃうダーレスが不肖の弟子なのだと…)


 えーと、わたしが怖くて好きなのは宇宙のタイムスケールのあたりと、常識が通じるのは世界の表面の薄皮一枚だけだよ〜その下は違うんだよ〜って部分かなあ。ゾクゾクするじゃない?(ホントだったらとても困りますが…)

*1:子供の頃病弱だった上に、いかなる理由でかお母さんが近所の子供と遊ぶのを禁じたかららしいです。

*2:子供の頃に読んで、ちびりそうになりました。今でもトラウマです。

*3:ここで猛烈に読みたくなって探しました。1時間ぐらい探しましたが見つかりませんでした。「孔子暗黒伝」はあった。本屋さんに走ったのですが売ってなくて、隣のブックオフにも行ったのですが「孔子暗黒伝」しかなかった。これから「孔子暗黒伝」を読むことにします。