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竹谷隆之『漁師の角度』

漁師の角度 完全増補改訂版

漁師の角度 完全増補改訂版

 不思議な本です。
 作者はリボルテックタケヤの竹谷さん。
 挿絵が写真です。実在の風景の写真と、竹谷氏の造形物と、その合成。
 体裁は写真集?
 ネットのレビューには「造形物がじっくり見られる写真集かと思ったら小説だったよ!」「写真に変なエフェクトが入っててよく見えない」などの怒りのコメントがずらり。
(付け加えるならば、2000年の同タイトルの本は、もっと写真集寄りであったらしい。)
 SF小説…なのかな…

 変わってるよね。
 私は、本は寝る前にベッドで読む習慣なので、とても手が疲れました。
 写真集のでかさと重さだったので。


 よく分からないのですが、攻撃を受けて壊滅した北海道が舞台です。
 もう先月ですが「竹谷隆之の仕事展」に行ってきまして。
 「漁師の角度」世界の、すっかり地形が変わってしまったけれどもまだ北海道と分かる地図に衝撃を受けて、Tシャツを買ってしまいました。
 この世界では海にも空にも異形の獰猛な生きものが満ち、いまや人間は食物連鎖の頂点ではなく。
 平成の世では間違いなく「前時代的な生き方」だったはずの半漁半猟のカネヒサじいさんが、攻撃後の変わり果てた異常な世界にピッタリ適応しているという。


 造形がデキて、世界観も構築できるなんて。
 天は二物を与えずって、うそでしょー!


 「竹谷隆之の仕事展」で見た、作業風景を紹介したムービーも凄かったな…。
 スケッチを脇に置いて、ぺたぺたぺたっと台に素材を盛ると、もうだいたい形が出来ちゃってると言う。
 ムービーの最後に「総作業時間 48時間」と表示された時、ギャラリーからどよめきが。


 なんだそりゃ!


 立体の把握力とか、それを手で出力するとか、そういうシナプスが凄いんだと思います。
 練習してなったとかじゃなくて、そういう風に生まれたんだよ、きっと。
 あと、職業がマンガ家で趣味が絵を描くことって人がたまにいますが、竹谷氏もそういう種類の人ではなかろうか。
 仕事以外でも、つねに素材こねてて、なんか作ってる感じ?
 そういう風に生まれたとしか…


 竹谷展のパンフレットのインタビューが読み応えがありました。
 竹谷作品の生物的ナマナマしさや血まみれ度は幼少時の体験に関係があったようです。
 お父さんが半漁半猟師で、幼かった竹谷氏の目の前でいっぱい殺生したそうです。(そして食べた?)
 だから血まみれなのかとか、それが良いとか悪いとかじゃなくて、生まれつき立体の才能があってかつ現代日本では少数派の背景を持つ人が造形作家をしていて、時には展覧会を開いたりして、なにがしかの入場料を払えば見られるってのは、すばらしい時代だと思うのです。
 もしも前世があるのなら、この人はぜったい前世でも立体の仕事をしていたはずで、このクォリティならとうぜん現代にも作品が残っていて、すでにどこかで竹谷前世作品を見てて「おお!」と思ったに違いないと思うのですが、ええと、何が言いたかったのかな。
 夢の素材スカルピーがあって、好きなものを好きなように作れる時代にリアルタイムで作品を見ることができて、良かったなあと思うのです。