『宮中賢所物語』

宮中賢所物語―五十七年間皇居に暮らして

宮中賢所物語―五十七年間皇居に暮らして

 皇居の中に三種の神器のうちの「鏡」を天照大神のよりしろとしてお祭りする神殿(宮中三殿)があって、そこに57年間お仕えした女性の話です。
 この方が勤め始めたのは昭和18年、退職したのが平成13年。
 ほとんど建物から出ることなく集団生活。生涯独身。
 神さまにお仕えする時は斎戒潔斎してから行わねばなりません。特に手は清浄に保ち続けねばなりません。
 浄・不浄の観点からほぼ全ての日常生活が規定されています。勤務時間外に自分の趣味を楽しむなんて不可能でしょう。
 私には無理だ〜!
 著者の方は、こういうスタイルでお仕えした最後の世代なのでしょうけれども、21世紀までこのような人生があったとは驚きです。


 この方の生き方や考え方、皇居での思い出に触れるのがこの本の主眼なのでしょうけれども、


 私は「浄」「不浄」の厳密さにびっくりした!
 平成の、21世紀の世に、浄・不浄を実際に厳密に日々実践している人々がいたと知って、カルチャーショックでした。
 不浄として忌み嫌われるのが血液と死です。
 たとえば肉親の訃報を勤務中に受けるのもよろしくなく、その瞬間からその人が不浄になるので建物の中を歩き回れなくなります。新聞紙などを敷いてもらってまっすぐ玄関まで行って退去。訃報を聞いた時に来ていた服は「穢れた」として処分。
 喪が明けて帰ってくる時は、電車賃の他はなにも持たずに来て、斎戒潔斎してから勤めに戻ります。
 そのほか月経の時のルールなどなど、強迫的と言っていいぐらい徹底しています。
 古い文化人類学の本でも読んでいる気分でした。


 興味深かったのは、浄の上に「もったいない」というランクがあること。
 神さまから下げたお供え物や、それに触れた手が「もったいない」
 それも水で流してリセットしなくてはならないそうです。
 「清らかすぎる」のも、ある種の異常状態と考えるのかも知れません?


 いやはや、カルチャーショックでした。