『二重被爆』
- 作者: 山口彊
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2009/07/07
- メディア: 文庫
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筆者はことし93歳。
29歳の時に 2 回 被爆しています。
どこで?などとは聞くもおろか。
広島・長崎コンプってことです。
「こんな人がいたんだ!?」と驚いて手に取りました。
1回だけで、十分に致命的な体験だと思います。
それから戦時下の交通事情で、中2日で広島-長崎間を移動できるものなのか?(蛇足疑問)
この本によると、2回被爆して(かつある程度年数を生きた人でしょう)は165人前後いたと記録されていたとあります。
筆者は長崎出身、三菱造船に勤めており、広島には3ヶ月の予定で赴任していました。
今日は広島工場に離任の挨拶まわりをしてーと言うところにリトルボーイ。
夏空に舞う落下傘(リトルボーイつき)から一部始終を目撃しています。
この辺りの描写が、ありありと目に浮かぶようです。
翌8月7日の昼、避難列車が出ました。この列車が長崎についたのは8月8日の昼。翌9日にもとの部署に出て帰任の報告をしている時にピカッと。
「キノコ雲が追いかけて来た」と思ったそうです。
皮肉にも、2回被爆するために無駄のない効率的な移動だったと言えましょう。
痛ましいことです。
1回だけでも十分に人生が変わると思います。
なのに2回続けて遭遇したら、どう感じるだろうか。
その後一週間足らずで終戦で…なんてことは当時は知りようがなく。
実験段階で、大量生産はできないものだなんて当時は知りようがなく。
「追いかけてきた」と思ったそうです。本にそう書いてあった。無理もない。
古くからの言い回し「二度あることは三度ある」を思い出したろうな。
2回立て続けに逢えば、3回目も4回目も5回目もある、そう思う方が自然でしょう。 「逃げられない」「みんな死ぬ」そうも思ったろうな。
その閉塞感その絶望感は、どれほどであったでしょうか。想像もつきません。
この本は、90歳を超えて書き始めた文章とのこと。
しかし、並の書き手とは思えません。
体験記でよく見られる、読みづらさ、分かりにくさは感じませんでした。
上にも書きましたが、ピカッと来た前後の描写はありありと目に浮かぶようですし、その後に自分視点を一時中断して、客観視点(原爆のスペックと被災地図)を挿入するのも、読者のことをよく分かっていらっしゃる。
この部分がなかったら、いったん本を置いてネットでこれらのデータを確認したでしょう。読書は中断され、没頭度は下がるでしょう。
本を書いた経験はなくても、長く短歌をやっていたためでしょうか。もともとが頭の良い人だったためでしょうか。
それともサポートの人が良かったのか(←ヤキモチ発言)