『ボルヘスと不死のオランウータン』

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)

ポーの詩『ISRAFEL』--コーランから引用された甘美なる声の天使--の題辞にしたがって、その名から母音を除いて残った子音をさかさまにすれば、LFRSとなる。新ゾロアスター今日の神聖四文字(テトラグラマトン)だ。ほかの母音を入れると、邪悪な神の名になる。時が来るまえに、これが声高に広められてはならないと。

 アルゼンチン出身の作家による、ボルヘス安楽椅子探偵となるミステリー(?)
 波乱含みで始まったエドガー・アラン・ポー研究会の総会が舞台です。
 『動物のお医者さん』で例えるなら、学会場で漆原教授とM大の磯貝教授の直接対決イベントが発生するような。
 やっぱり血の雨が降っちゃって。
 でも前フリの憎しみ合いも殺人も安直な感じで、登場人物はさほど「人の死」にショックを受けてないし(てゆうか死体で遊ぶのはやめようよ)、見るからに「記号としての殺人」みたいで、ボルヘス安楽椅子探偵っていっぱつネタがやりたかっただけかー?


 と口では文句を言いながらも小ネタが大好物だったから、残さず美味しく頂きました。


 途中(やや脱線して)議論されるネタ↓


 太古、うっかりと正しい神の名を書き記してしまわないように(やっちゃうと世界が吹き飛んでしまうから)、文字の書き方は慎重に定められていた。
 ところがグーテンベルグの発明からこちら、文字の書かれる機会が増え、うっかり正しい神の名を書き記してしまう可能性(危険性)は増えるばかり。

「いかにも!だから古代ヘブライ語には母音の表記がない。神の名は四つの子音の頭字語、神聖四文字(テトラグラマトン)で表された。フォーゲルシュタインくん、きみやわたしのようなやからが、ただの警句を書いているだけのつもりで、正しい母音を挿入して神の名を完成させ、世界を吹っ飛ばしてしまわないようにね」

 そしてわたしはそっと付け加える。
 ブログやそれに類するサービスと、その利用者は増える一方である。
 いつか、わたしのようなやからが、メガネ中華魔人への萌ゆる思いやマイナー怪奇作家にして稀代の文通魔への萌ゆる思いとか自称天才軍師への萌ゆる思いとかを書きつづっているだけのつもりで、正しい母音を挿入して神の………ま、それはないか。



 最後に付け加えるなら、この作品は、ボルヘス安楽椅子探偵って、ただのいっぱつネタではありませんでした。