『ヒトラーの贋札』

 完璧な贋札。
 それは俺たちの命を救うのか。
 それとも奪うのか---

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 ナチスは収容所で贋札を作っていたそうです。
 ベルンハルト作戦と言います。
 映画を見る前は、どんなトンデモ作戦でも、ナチスならなんでもありだよねえと思っていました。
 UFO作ろうとしたとか、古代の超文明の超兵器を探してたとか、アメリカ大統領を呪殺しようとしてたとか、どんなトンデモ作戦でも「ナチスだもの」で思考が止まってしまいがちです。
 なかなか「嘘だ」と本気で批判する気持ちになりません。
 だってナチスだもの。
 それに、ドイツ語っぽい名前に「作戦」てつけるとやたらめったら格好良くなってしまって、その格好良さがなにやら説得力を増しているようです。
 もちろん気のせいなんですが。


 UFOに比べたら贋札作りなんてぜーんぜんトンデモ度が足りないよ、とか思ったら本当の話だったそうです。


 じんわりと佳い映画でした。
 子供っぽいヒロイズムを卒業した違いの分かるオトナにオススメ!か?
 主人公は画家崩れの贋札作りです。
 本名サロモン・愛称サリーのラブクラフト似のユダヤ人のおじさんです。
 昨日、顔の左右対称美について書きましたが、サリーは顔が左右対称ではありません。
 大それた事に偽ドル札を作ろうとして捕まり、強制収容所に入れられてしまいました。
 強制労働の一日の後、夜中にベッドを抜け出して、ぐっすり眠っている班長のクリップボードをそっと取ります。
 血豆の痛みをこらえて鉛筆を手に取るサリー。
 ああ、この人はほんとうに絵が好きなんだなあ、とウルッと来ました。
 が。
 サリーが描いたのはカッコイイナチスの兵隊さんの絵。
 ナチスに取り入って楽な仕事をゲットするためでした。
 ナチスの前だと露骨に態度違うし。
 ガクリ。


 ところが、この顔も根性も曲がったラブクラフト似のおじさんが、だんだん格好良く見えて来るから困ります。
 酸いも甘きも知り尽くしたオトナの格好良さてこうじゃないか!?とだんだん騙されて…?


 サリーに対置されて、殉教者気取りの子供っぽいヒロイズム炸裂の若者が登場します。
 ナチスのために贋札なんか作れるか!俺はサボタージュするぜ!するぜ!と主張しまくる若者です。
 サボタージュを止めないと連帯責任で仲間も殺すと脅されても方針を変えません。
 そういう意地(というか自暴自棄)は、他人を巻き込まないような形で発揮した方がいいと思うなあ…。
 サリーはこの青年を密告するでなく、サボタージュに賛同する訳でもなく。
 第三の道、マイスタークラスの職人の腕で事態を収拾します。
 サリー超カッコイイ!!!(←すでに術中)


 エンドクレジットで、その「殉教者気取り」が原作者だと知りました。
 ………突っ込まずにはいられませんでした。





 公式サイトを見たら、原作者のサボタージュは映画のフィクションだと明記してあって、突っ込んでごめんなさいと思いました。




 などと茶化して描きましたが。
 サリーは言葉で言わないだけだと思います。
 強制収容所でショックを受けて、恐怖で圧倒されて、傷ついた。
 自分は幸運だったけれど、ほかのみんなは…。
 彼の辛い気持ちは言葉で語られなくても、伝わって来ました。
 映画のラストで、分かる人が分かってくれたのが救いです。