『ベルリン・天使の詩』

ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版 [DVD]

ベルリン・天使の詩 デジタルニューマスター版 [DVD]

 さるお方が大好きだと言っていたので、挑戦してみました。
 ストーリーとかセリフとか言語で表現しやすい部分よりも、絵と雰囲気がぶっちぎりに佳くて…これは…言葉では感想書きにくいですね…
 つーか言葉を費やして説明して人に勧めるより、「良かったから!観てよ!貸すから!」がいちばん効果的なんじゃないか。そんな感じの映画だと思いました。


 ヒロインがサーカスの空中ブランコ乗りなので、それで例えますならば。
 わたくし、空中ブランコとは、キビキビしたアクロバットを楽しむものだと思っていました。
 その認識は間違っていたのかも知れません。
 この映画での空中ブランコは、静と動では、静の方が強い印象を残します。
 空中でのあやういバランスのもとでの人体のラインの美しさを楽しむモノだとすると、空中ブランコとはたいそうエロい出し物なのかも知れません。
 万事がこういう調子で、見終わった今、思い出されるのは、モノクロームの動きの少ない場面ばかりです。
 上のモットーと正反対のことを言いますが、色彩豊かでアクロバチックで火薬がどっかんどっかんしている刺激の強い映像だけがまぶたの裏に焼き付けられる訳ではないことだなあ。


 観ていて思ったのは、ベルリンの壁があったころのベルリンって、こういう所だったのかなあ、と。
 主人公・天使ダニエルに「出会う」前のヒロインの憂鬱と孤独には、時代の空気も色濃く含まれているのでしょうか。
 過去の歴史は未だに精算されず、人々はみな将来の不安に押しつぶされて陰鬱で、虚しさを噛みしめていて、家族がいても、孤独。
 元気にるんるんしている人はほとんど出てこない。子供ぐらいかなあ。
 ライブハウスに集う人々は全員サイコパスに見えちゃって、うひょーと思いました。
 特に男性。ドイツ人らしい薄い肉付きの骨張った顔、眉のすぐ下の落ちくぼんだ眼窩の奥の冷たい色の鋭い瞳を瞬きもせず見開いていて。怖いよ。冷戦末期のベルリンって、こういう所だったのか…
 主人公の相棒・カシエルが見つめ続けるのは、歴史を語り継ぎたいと熱望し、焦燥し、老躯に鞭打って東西分割前のベルリンの面影を探す老人。ナチスの時代を舞台にした映像作品の撮影現場に集う人々。
 個人的には、カシエルの観察対象のセレクトの方が渋くて好きだと思いました。


 いっしょに続編のディスクも入手しました。
 これによると、このあと数年でベルリンの壁崩壊らしいですね。
 なんかこう、「天使を辞めて人間になる」と聞くととてもロマンティックなのですが、住所不定・戸籍なし保険証なし職歴なし・所持金200マルク(クラスが変わったので装備できなくなった鎧を売った)の、ちょっと挙動不審な中年男性になっちゃった主人公(クラスチェンジのペナルティなのか?)と、そんな主人公と一緒になったヒロインが、時代の変わり目で苦労してないか心配で心配で仕方がありません。


 こういう所ばかり気になる自分は、この映画の価値を本当には分かってないと思います。


 この後、缶ビールをもう一本開けて『ヒトラー最期の12日間』を見てしまった(あんまり口直しにならなかった)ので、とても眠いです。


 いま、続編『時の翼に乗って』の冒頭を見たら、元天使のダニエルがるんるんと元気で幸せそうにしているので安心しました。


 カシエル役のオットー・ザンダーが『Uボート』にも出ていると書いてあったので、こっちも観てみました。
 主人公の同僚のトムゼン艦長ですか?
 トムゼン艦長はクマのようにヒゲを生やし薄汚れてくたびれた制帽をかぶって泥酔状態でのご登場。
 とてもカシエルと同じ人には見えません。
 役者は化けることだなあ。