『街道をゆく』

街道をゆく〈35〉オランダ紀行 (朝日文芸文庫)

街道をゆく〈35〉オランダ紀行 (朝日文芸文庫)

(…)日本人に好まれている児童文学『フランダースの犬』についてもふれたい。
 ウィーダというペンネームをつかっていた十九世紀の女流作家の作品である。ボードレールと同時代の人で、その『フランダースの犬』のなかで、ルーベンスの「キリストの降架」が圧倒的な美として登場する。その美のために--曲折はあるが--少年と犬とが凍死するというおそるべきはなしなのである。

 恥ずかしながらわたくし「お前の観たのは別の映画だろう」とよく言われます。
 主にこのブログで。
 ひとつには、いちばんの特徴を語らずに、2番目3番目4番目の特徴を熱く語っているからだろうと思います。
 だってそこがツボったんだから仕方がない。
 あと、わざとズレたことを書くこともあります。感動して泣いたって告白するの、ちょっと恥ずかしいような気がして。
 そのわたしですら、司馬先生の『フランダースの犬』の要約は、凄すぎると思いました。


 しんみりしたのが以下の下りです

 「スピノザの家が残っています。ご案内しましょう」
 といって、オランダの女王陛下が、市電に乗って出かけたことがあるという。
 彼女に案内されたのは、訪蘭したポルトガルの大統領閣下だった。十七世紀にスピノザの両親を追いだした国の大統領が、かれらを保護した国の女王によってその旧居へ案内されるのである。まことにいま世界はいい感じの時代に入っている。
 以上はむかしばなしではなく、わたしのオランダ滞在中のできごとだった。

 初出を見ると、89年ごろの文章のようです。
 ちょっと先では「現代史も、ほんの半世紀前までは苛烈だった」と前置きしてから、ナチスドイツのユダヤ人迫害に触れられています。


 いま読むと、隔世の感があります。
 いま「まことにいま世界はいい感じの時代に入っている」と言える人はいるのでしょうか。
 自分周辺の狭い世界に限って言うなら、わたしも割とそう思っていたのですが、世界の悲惨なニュースを思えば、とてもそんなことは口に出して言えないと感じていました。
 むしろ最近は自分周辺の狭い世界でだって、あんまり言えない…かも……


 きょう、仕事が立て込んでいて、ずいぶん腹を立ててダイレクトに怒りをぶちまけちゃったりもして、いまじわじわと後悔して落ち込んで来たので、これから飲酒しながら秘蔵のDVDを見ようと思います。
 PSUにつなげなくてごめんなさい。明日も早いのです。ごめんなさいごめんなさい。