『虐殺器官』
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/06
- メディア: 単行本
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「食料として動物や植物を殺さなければならないうしろめたさを軽減しないと
冷静に食事もできないからね」
「食べたいけど呪われたくない
呪われたくないけど食べたい」
「"いただきます"はたった一言で
膨大な殺生を一瞬でチャラにできる夢のおまじないなんだ」
動植物を殺して食べて生きることは、いつのまにか気にならなくなった。
そんな観念的で青臭いものに免疫になった自分がちょっぴり誇らしい。
でも、こんどの呪いをチャラにする夢のおまじないは、かんたんには見つかりそうにない。
はてなダイアリーをはじめて間もなくに、作者氏のブログを見つけて以来、気になるお方でした。
なるほど映画とはこう観るのか、と。
感心するばかりでとても真似はできませんでしたが。
なんとなく年上の人だろうと思っていたので、こんかい裏表紙のプロフィールで生まれ年を見て衝撃を受けました。
本人にお目にかかったことがなく、文章だけで知っていた場合、自分より上の知能を有する人は年上と思いがちです。
年を経るごとに自分の賢さが上がっていくという幻想があるからだと思います。
そろそろ自分が頭打ちだと言うことを直視する時期なのかなあと思いました。
悲しい現実です。
この作品は、ずっと読んでみたいと思っていました。
反面、恐れの気持ちもありました。
「…まずいっ 俺はポスト9・11がいまいちわからぬ…」
「…まずいっ 俺はモンティ・パイソンの善し悪しがいまいちわからぬ…」
とへうげものパロでちょっぴり恐れていました。
ブログのレベルの高さに思いめぐらし、1ミリも意味が分からなかったらどうしよう、と。
という恐れはまったくの杞憂でした。
すごく読みやすくて情景は目で見るようにするすると脳裏に像を結び、1昼夜で読み切ってしまいました。
でも、あのブログと同じ匂いがした。
一人称「ぼく」の主人公の、ナイーブで、どこか現実と距離を取ろうとする、陰惨な現実を目の当たりにしながらも、ダイレクトな怒りでもって語らない語り口がツボでした。
ダイレクトに怒りをぶちまけるよりも、抑うつと自責に焦点を当てる人を、わたしは好ましいと思います。
まあ理由は聞くな。個人的な理由だから。
かと言って主人公の怒りが伝わってこない訳ではなく、むしろぶちまけられるよりもじんわりと伝わってきます。
テクノロジーの進歩が人間の葛藤と不幸を深めるという嫌な未来の嫌さも、ぶちまけられるよりもじんわりと。
それ故、文章は淡々としたままながら迷妄に突き進んでいく主人公に共感して、最後まで読み切りました。
ごちそうさまでした。