『カリスト-開戦前夜-』

 谷甲州が夢想した未来史、通称「航空宇宙軍史」シリーズの一冊です。
 必要に迫られて10年ぶりに再読しました。
 とても面白かったです。


 では話が終わってしまいますね。
 航空宇宙軍史は、地味なんです。
 こんにちで言うところの「キャラ萌え」要素は皆無ではないけれども前面に出ているとは言い難い。
 と腐女子のわたしは思っていました。
 『星空のフロンティア』『終わりなき索敵』で描出される若き日のお母さん萌え、はちょっとついて行けないなあ、的な。腐女子だもの。
 一般的にはキャラ萌えでない、別の所にしびれるシリーズと言えるでしょう。
 航空宇宙軍史の一つの山場として、「外惑星動乱」があります。
 これは、21世紀末に起きる木星と土星のコロニーの独立戦争の物語です。
 ガンダムで言ったら、サイド3=ジオン公国独立戦争であるところの1年戦争に似ている所もある、と言ったらイメージしやすいでしょうか。
 ロボットアニメの宿命「はじめにガンダムありき」のガンダムと異なり、甲州先生は「宇宙の植民地が宇宙で独立戦争するなら、どんな兵器が有効で、どんな軍隊が必要かなあ」と考えるところから話をはじめているのが、とんでもなく地味であり、興味深い点だと思います。


 けれども、数少ない例外の一つとしてばっちりキャラ立ちしたダンテ隊長と個性的なメンバーを誇る「タナトス戦闘団」があります。
 『カリスト-開戦前夜-』は、宇宙で戦う歩兵部隊であるところの「タナトス戦闘団」成立の物語です。
 ばっちりキャラ立ちし主人公補正のかかった異常な戦闘力を持つダンテ隊長が、一癖も二癖もある猛者どもをスカウトしていく過程は、王道の物語と言えるでしょう。
 しかし、それはこの物語の半分に過ぎません。


 残りの半分は、軍首脳が延々と会議をする場面で出来ています。*1


 それこそどんな軍隊が必要か、とか、どうやってこっそり軍隊を作るか、なんて話からしています。
 「こっそり」って何よとお思いでしょうが、離島の市町村が独立戦争のために軍隊を持とうとしていると想像するとイメージしやすいのではないでしょうか。あまり露骨にやりすぎると、警察に逮捕されますですから(という理解でいいのか?)
 そもそも地球相手に独立戦争ふっかけて勝ち目があるのか、えーとやりたかったのは戦争だったけか、なんて議論もしています。
 なんとなればコロニーの同盟の人口は1千万人ぐらい?(という説をどこかで見たのですが少なすぎませんかのう?)、1億5千万人いたとされるジオン公国だって勝てなかったのだから、単純に人口比だけで考えても無理だべした。
 しかし地味な会議パートも読み飛ばせません。
 と言わなくちゃいけない所ですが、10年前は思いっきり読み飛ばしていたことを思い出しました。
 今回再読して、会議パートがとても面白いと感じました。
 王道ストーリーと会議パートがからみ合い、ミスディレクションをはさんで、クライマックスで激突する構成は見事だと思います。
 前回はどこを読んで面白がっていたのかと自分につっこみつつ、読み飛ばしたことを作者氏に深くお詫びする次第です。


 この戦争では歩兵部隊は重要ではない、と甲州先生は考えたようです。
 詳しい説明は省きますが(つか、詳しくなんか説明できないから!)、地球側は宇宙戦艦を出動させてコロニー側の輸送を邪魔すれば、それだけでコロニー側は詰んでしまいます。
 宇宙の航路をめぐっての宇宙戦艦vs宇宙戦艦がメインであり、歩兵部隊が戦争の主役にはなりがたい。
 という結論に至ったのでしょうか。


 そもそもこの『カリスト-開戦前夜-』にしたって、主人公と仲間たちの華々しい活躍は冒頭だけで、ドンパチを期待している向き(例:わたし)はクライマックスは肩すかしだ!と思うかも知れ…ごめん、ちょっと思ってた。
 むしろ会議パートの方が、ある意味王道だった…かも…(10年目にしてはじめて知る真実)
 ダンテ隊長たちの活躍は次号『タナトス戦闘団』を刮目して待て!みたいな感じ…?
 ではなんのために主人公と彼のタナトス戦闘団があるのか。
 コロニーの将軍たちの、主導権あらそいの尖兵…なの…?
 というか「居るだけ」で彼らの上司の発言力が増す、気になる存在?
 未来の宇宙の戦争のありようを真面目に考えれば考えるほど、主人公の活躍の場がなくなるという、ジレンマ?
 ハードすぎると言うか地味すぎると言うか、言葉に困ります。
 週刊ジャンプで育った身としては、主人公チームはいさましく敵と戦って世界を救うのではないのかと、恨み言のひとつも言いたくなるようなないような。


 後に、ダンテとタナトス戦闘団はその異常な戦闘力をもって、主戦派を追い払い、終戦への道を開くことになります。
 これこそ主人公チームらしい華々しいドンパチの見せ場だと思うのですが、直接描写されることはなかったと記憶しています。
 どんだけ地味なんだ…。


 以上、中途半端な知ったかぶり解説でした。
 先に謝っちゃうぞ!ごめんなさい!
 最後に。
 エリクセン准将はメガネキャラだと思って読んでいたら、とても萌えました。まる。

*1:ちょっと誇張有り