『夏草の賦』上
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/09/02
- メディア: 文庫
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「おやおや、女のことを、よくご存じでございますこと」
「物のたとえだ」
「うかがいますけど」
「なんだ」
「年の長けた女がお好きでございますか」
「たとえだ、といっている」
元親は、ひざをはらって立ちあがった。菜々はその袴のすそをとらえた。
「いましばし、ごゆるりと」
この機会に元親のもっともわからぬ部分--女性関係や女性観をきいてやろうと思ったのだが、元親はあわてて袴をはらい、逃げるように部屋を出てしまった。
(この点でも、むじな殿だ)
とおもったが、一面、この点でも元親はひどく臆病なことがわかった。菜々に袴のすそをとられたときの元親の顔は、とても土佐第一等の英雄というようなものではない。
「お里」
と、そのあとで、菜々は自分の乳母にいった。
「私、どのような顔をしておりました?」
「真っ赤」
お里は言い、自分の歯を指さした。菜々の歯が桑の実で真っ赤だったというのである。元親はひとつはその唇におそれをなして逃げたのかもしれない。
司馬遼太郎の書いたアニキの本を読んでいます。
すっげ面白い。
血湧き肉躍る戦国絵巻の面白さではなくて…変わり者の姫による不思議武将・元親観察日記?
まさかこんな面白さだったとは。
やるなシバリョー。
物語は、信長が美濃を奪った頃からはじまります。
信長配下のさむらいの家に、美しいけれど、ちょっぴり変わった姫がいたそうな。
ある日、姫を嫁にもらいたいという使いが家を訪れます。
はるか遠い四国から。
戦国の昔のこと、尾張・美濃から見た四国は、外国も同然です。
いや、外国よりも遠い。
「鬼国」である、と。
人の代わりに鬼が棲む、と真顔で言われるほどに遠くて情報の少ない土地であり、いにしえには「四国へ流刑イコールこの世とお別れ」と誰もがナチュラルに思った土地である。
とにかく人の顔や風俗も違うし、植物も違うし、馬なんか犬のように小さいそうな。
じゃあ代わりに犬が馬ぐらい大きいのか?
そんなミステリアスでほとんどファンタジーの国へ嫁ぐことを、変わり者の姫はあっさり承諾します。
嫁入り先は、ことし25歳の長曾我部元親。
子供のころは百万回「女の子?」と言われ、22歳で家を継いだ時には、まず家老に「槍とはどうやって使うのか?」と質問して動揺させ、次には「大将たるものは、先頭に立つのがよいのか、後ろからゆくのがよいのか?」と質問して卒倒させ、そのくせ初陣は大勝利を飾り、若くして土佐の有力武将となった男である。
顔は、まあ、合格?
そのくせ…
姫と話してもいまいち会話がかみ合わない、何考えてるのか分からない、かと言って冷たいわけでもない。
何日も姫に膝枕をさせて何事か考えこんでいるかと思うと、急に「そうか」と叫んでどこかに行ってしまう。(そして後日、姫は、隣国の大大名を元親が倒したというニュースを聞くことになる)
戦場では謀略の限りを尽くす真っ黒タイプの武将でありながら、案外やさしいところもあったりして、読めない。虚弱な風邪引き男のくせに野望は果てしなく、努力は惜しまない。勤勉と言っていい。
変わり者の姫にとって、天地の間でもっとも興味のある存在は、元親となった。
だって変だから。
そんな姫を元親はちょっと迷惑に思っていて、あまり観察するなみたいなことを言ったこともある。
でも、姫は、口では「分かりました」と言いながらも内心は
これほどの楽しみ(=元親観察)を捨てられるか、
と思っていて、
今後もこの元親という対象をじろじろながめにながめてうんと愉しんでやろう
と決意を新たにするのであった。
飲酒しながら上巻の半分ぐらいまで読み進めました。
少々誇張した(しすぎた)ところもあると思いますが、受けた印象はこんな↑感じです。
キャラが立ちすぎていてゆだんがならぬ。