『城塞』

城塞 (上巻) (新潮文庫)

城塞 (上巻) (新潮文庫)

 大阪城落城の話です。
 個人的な思い出ですが、慣用句「外堀を埋める」の使い方でケンカになってサークルの仲間がひとり去りましたっけ。かれこれ7年ぐらい前の話です。
 これが「外堀を埋める」の出典か、と感無量です。
 使い方の違いの詳細は、いまとなっては全く思い出せません。
 つまらない事でケンカをしたなあと思います。彼は元気だろうか。


 物語は秀吉死去からはじまり、大阪冬の陣と夏の陣の間の外交パートが、つまらない訳じゃないけれども、読んで元気になる雰囲気ではなくて。老獪な家康が無敵モードで、対する大阪方が一方的にやられていて、可哀想を通り越して、読んでいて鬱でした。
 物語が面白くあるためには、敵方に実力と魅力が、敗ける側に華があって欲しいものだと思います。大阪方の首脳陣に実力と魅力のあるキャラクターは見あたらず、スパイであるところの小幡勘兵衛とオリキャラのお夏ばかりが生き生きとしてるように感じられました。
 真田幸村、長曾我部盛親をはじめとする浪人たちが大阪城に集まってくるくだりから急に面白くなりました。それが上中下の中巻冒頭からです。
 続く戦闘パートもぶっちぎりに面白かったのですが、冬の陣の後の外交パートでは再び家康無敵モードとなり、幸村たちの奮戦がひどく甲斐のないものに感じられ、ふたたび鬱になりました。
 駆け足の秀頼の最期、勘兵衛がぼやく戦国時代の終焉、作者がぽとりと筆を落としたような唐突な終わり方に、置いて行かれたような思いを抱きました。
 だからでしょうか、もっと読みたい思いにかられ、書店にダッシュしてまた買いこんで来てしもうた。


 司馬さんには「敗ける側の華」、あるいはそれに対する陶酔に対して、どこか心からは賛美できない思いがあるのかも知れないと思いました。敗ける側の華を描いた後、少し、水をかけておこうとするみたいな印象を受けたのです。
 司馬さんはたしか第二次世界大戦に戦車兵として参加したとか。
 どんな兵隊生活だったんだろう。知りたくなりました。
 そう思って年譜を見ていたら、司馬さんは栃木県は佐野市で終戦を迎えたそうです。
 わたしの故郷のすぐ近くだ。
 もしかしたら、祖父母が司馬さんとどこかですれ違っていたかも。