『蒼き狼』

 モンゴル建国800年記念映画を日本人キャストで…?などと観る前から地雷の予感が強くしていた映画です。
 封切り前から訴訟の話とか出てるし……。
 観てきました。
 中国系映画風の非英語外国語音声+日本語字幕だとなぜか思いこんでいたので、冒頭から思いっきり吹き替えなしの日本語台詞で、軽く衝撃を受けました。


 思うに、素晴らしい所と駄目な所の落差が大きい方が、心に強い印象を残すのではないでしょうか。
 お金をかけてて戦闘シーンは凄いのに他がすごく駄目。なんてのを期待してワクワクして見に行ったのですが。
 意外と(失礼)可もなく不可もなく、淡々と見れてしまって、映画館を出た瞬間に忘れる類の映画だと思いました。
 あまりにも手応えがなかったので、続けてもう一回『墨攻』を観そうになってしまいました。
 2時間16分という、今日では短めの尺に比して、もりこんだ要素が多すぎたのだと思います。
 モンゴル統一への最後の敵が親友という、せっかくの燃える構図も、親友描写の少なさと親友がいまいち立派なヤツには見えなかったために、不完全燃焼に思えてしまいました。
 父と子の葛藤要素も、今ひとつ心に響きませんでした。
 息子ジュチの印象が薄すぎると思います。もっとエピソードが欲しかった。とくに武将としてがんばってる場面が欲しかった。
 主人公テムジンは、「自分はほんとうに尊敬する父の子なのか」という不安を抱えたキャラクターとして設定されていました。息子ジュチも同じ不安を抱えていて、父となったテムジンの悩みを別の角度から見せる構造だと言いたいようでしたが、テムジンはグレーだけどたぶんシロ、対してジュチは真っ黒ではないですか。別の問題じゃないかと思いました。
 この件に関しては、テムジンの母(若村麻由美)がいっけん愛情を持って道理を説いているようで、その実テムジンの心の傷に塩を塗り込んでいるように思えてなりませんでした。テムジンの父に戦利品として略奪された女として、テムジンに最初の夫を殺された女として、いま復讐をしているのだろうかと、勘ぐられて仕方がありませんでした。
 韓国出身の新人俳優、Ara演じるクランは良かったと思いました。
 たどたどしい日本語が、アヤナミ系戦闘美少女ぽさを醸し出していてかえって良かったと思います。
 母、妻の不幸を経て形成されたテムジンの女性観を象徴する部分を担っているようでしたが、それだったらもっとエピソードがあった方が感動できたと思います。後半は台詞なしの顔だけ登場場面の方が多く、残念に思えました。
 ぜんたいにテムジン役の反町隆史の感極まった演技が浮いて見えました。
 各エピソードの積み上げが足りず、観客のわたしが同等のもりあがり心理になっていないためではなかったでしょうか。
 なんか食い足りない。
 もっと長いバージョンが公開されたら、観てしまうに違いない。それともきょう『墨攻』か?


 モンゴルロケならではの部分は見応えがありました。
 スクリーンで見るモンゴルの山河は、素晴らしい。なまで見たらもっとすごいんだろうな。いつか行きたいな。
 モンゴル風おひめさま衣装はかわいらしすぎる!
 モンゴル風シャーマン(津川雅彦)は、扮装が怪しすぎて面白かった。登場があれだけとはもったいない。
 モンゴルエキストラの乗馬姿は凄かった!
 かなりのスピードで馬を走らせているのに、上半身がほとんど揺れてないの。凄い安定感。馬から落ちそうなぐらい身を乗り出して弓を構えても、弓の先がぴたりと静止しているの。凄い。
 でもその凄さは冒頭の人妻襲撃シーンだけだったかも知れません。
 後半でたっぷりモンゴル馬術の凄さを楽しめると期待していたのですが、乱闘シーンに紛れて、さほど馬術は目にとまりませんでした。残念。
 戦闘シーンは、意外と面白くなかったです。はい。
 大軍の乱戦状態をより気味のカメラでばかり撮っていて、戦闘の推移は皆目わかりませんでした。戦闘の流れを説明する気はなくて、たんなるイメージ映像としての戦闘シーンて感じ?
 エキストラ人海戦術の迫力ばかりが画面を覆い尽くし、と言いたいところですが、けっこう後ろの方で棒立ちの人とかいたかも。残念。
 騎馬軍団のスピード感ある連携プレイや、テムジンの指揮で刻一刻と生き物のように陣形を変えてゆくような、そんな爽快さを期待していたので、ちょっぴり残念です。


 当時のモンゴルは戦国時代のような群雄割拠の時代だったようです。
 合従連衡の面白さの描写は、薄口であるか、あるいは最初から諦めているような印象でした。聞き慣れないカタカナ人名と部族名がいっぱい出てくる短いナレーションだけでは理解できないよ!(逆ギレ)


 映画に筆記用具が一度も出てこなかったと思う。
 紙製品は地図ぐらい?(皮だったかも?)
 およそ事務仕事っぽい場面は一切ありませんでした。
 戦費や食費、移動にかかるコストはどうやって計上しているのか、ふっと疑問に思いました。
 どんぶり勘定…なのかな…?