『犬神家の一族』
- 作者: 横溝正史
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1972/06
- メディア: 文庫
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年代はぼかされていますが、終戦後まもなくの、多くの日本兵がまだ故郷に帰り着いていない時代の物語です。
たいていの若者に兵役そして戦争の経験があり、事件そのものにも太平洋戦争が影を落としています。
ですが、PTSDの概念が普及して以降のハリウッド製戦争映画をさんざん見た後では、ビルマ戦線をくぐり抜けたある登場人物が健やかにすぎるように思えたのでした。ビルマ戦線自体の描写もあっさり風味で。もっとPTSDが濃厚に動機に関わってるかと思ったんだがなあ。たとえば新本格のあのお方であれば、きっと冒頭に独白形式で濃厚なビルマ戦線描写をかまし、冒頭では誰かは分からないけれども事件の核心近くの人物が尋常な精神状態でないことを匂わすだろうなあと。違ったなあ。
て言うか、この物語では 生まれ育ちの怨み>戦争 のようです。比重が。
多くの登場人物にとって、人生のメインテーマはあくまでも家族の葛藤で、戦争は一時的な中断をもたらしたにすぎなかったようです。
まるで戦争なんてすぐにケロリと治る一時的な高熱に過ぎないみたいに思えます。読んでいると。
戦争だってじゅうぶん大事件だと思うのですが、まっこと恐ろしきは財産のある家の家族のドロドロと言うべきか。
貧乏な家に生まれて良かった。
あるいは。
太平洋戦争終結後、多くの日本人がまたたくまに正反対の価値観を受け入れたと聞きます。
それがいいか悪いかとか、戦時中は変だと思いながらも口に出しては言えなかっただけよとか、そういう話は横に置いておいて。
そのような時代の空気を映し出しているのかも。
とか想像してみた。
きょうもまた適当なことを言ってます。