『星を継ぐもの』
- 作者: ジェイムズ・P・ホーガン,池央耿
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1980/05/23
- メディア: 文庫
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(…)死体の横たわっていた位置を見つめながら、ハントは身内に名状し難い感情が湧き起こって来るのを覚えた。人類の歴史の第一ページが記されるより数千年も前に、まさにその場所に一人の男がうずくまり、ハントがつい最近二十五万マイル彼方のヒューストンで読んだ手記の最後のページをふるえる手で認めたのだ。ハントはその出来事から現代に至るまでに流れ去った長い長い時間のことを思った。宇宙のどこかで繁栄し、そして亡び去った国家のことを思った。灰燼と帰した幾多の都市。一瞬の光芒を発って過去に飲み込まれて行った生命。その間中、この岩に隠された秘密はついに明かされることなく、沈黙の裡に閉じ込められていたのだ。(…)
月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった一人の男の死体を発見した。
某国が蛮勇に満ちた宇宙開発を極秘に行っており、成功例を大々的に公表し失敗例は秘匿してるんじゃねーの?というジョーク(?)があります。この死体もその例かと思ったらさにあらず。
"チャーリー"と名づけられたこの男、間違いなくわれわれと同じ人間でありながら五万年前に死んでいると判明し…
(この項、一部に嘘を含みます)
1977年発表。1980年日本語訳が出版。
古典中の古典であり今さらわたしが紹介せんでもいいかなあと思いつつも。
やっぱり、いま読んでも、再読でも、文句なしに面白いです。
いま、ざっと斜めに読んで気になったのは、現代だったら真っ先に試みるであろうDNA解析の話が出てこない点ぐらいでしょうか(酵素か何かを分析してたみたい?)
この作品の面白さは、いろいろありますが、ひとつには「分かってゆく面白さ」があると思います。
五万年前の死体の骨格と筋肉から彼の生まれ育った星の重力を推定できませんか? 酵素活性から平均気温を推定できませんか?
"チャーリー"が紙製の小冊子を持っていたら、それは手帳だと推測されませんか? 手帳にはカレンダーがついてませんか? それで彼の星の一年の長さが分かりませんか?
手帳には度量衡換算表や対数表が載ってませんか?
そこから単位や数学記号を推理できませんか?
(ここは、一瞬、突っ込みたいと思いました。普通の人の持つ手帳には物理数学のこまごましたことは載ってないと思います。作者のホーガン氏と周囲の人々は科学に感心が高いから、ナチュラルにそういった手帳を持っているのでしょうけれども…ああ、でも"チャーリー"も理系人間だったのか)
パソコンや携帯のアダプターには何ボルトで何アンペアで何ヘルツか書いてありますよね。
"チャーリー"の装備品にもそのような表記があるはずだ! 探すんだ!
これらのひらめきが面白いし、だんだん"チャーリー"の生きた世界が分かっていくのが面白い。
「分かっていく」ペースが割とハイテンポで、形容するなら「サクサク」でキモチイイのです。
これらの推理が、五万年まえの異邦人にとっても物理法則は一緒、太陽系の構造も一緒、宇宙に行く装備も日用品の発想も似てるに違いない、という前提で進んでいくのに対し。
もう一点ネタが仕込まれていて。
右ストレートがメインだと思っていたら、左が本命だった、みたいな。
こんなに似てる似てる共通する共通すると連発しておいて、最後に一コだけ、
わざとなんだと思います。
若き日のわたしは、驚きのあまり本を取り落としました。
怒りは覚えませんでした。
あまりにも鮮やかで、ただただ感心しました。
物語りの面白さというものに目覚めた…というよりK.O.された、という感覚でした。
機会がありましたら、ぜひご覧下さい。
ご近所さんならお貸しします。
過去に5冊ぐらい配りました。