『変革への序章』
- 作者: デイヴィッドブリン,David Brin,酒井昭伸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/09
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人類が、宇宙をまたにかけ銀河列強どもを向こうに回して派手に立ち回る燃えるSFシリーズ、と書くと言いすぎかしら、な「知性化戦争」シリーズの、真ん中の三部作(予定)の序章にあたります。
同シリーズの『サンダイバー』を発掘したので眺めていたら、解説で、大野万紀氏が書いていた言葉がどんぴしゃに思えました。
このシリーズを読んで感じた痛快さと、その痛快さが露骨に優越感と攻撃衝動を満足させるものゆえの、「大好きだと言い切ったら性格悪いと思われちゃうかしら」と心配になる感じをぴたりと言い尽くしたように思えます。
本書や、『スタータイド・ライジング』に見られるのは、頭の古い"悪い大人"である銀河の列強種族に対して、知恵と勇気でその裏をかこうとする"賢い子供"--人類や鯨類--の物語である。もっとも人類を"賢い子供"と見なすのはさすがに気恥ずかしいためか、元気なイルカたちが次代をになうものとされているのだが…。
『サンダイバー』解説より 大野万紀
プライドと虚栄心の秘かな満足…。
SFの深部に根深く存在する素朴なモラルの一つは、みずから努力する者は報われるというものである。これはSFが未来を見つめる若者の視線を共有する文学であることと強く関係している。今に見ておれ、過去に安住している保守的な口うるさい老人どもめ、あなたたちにはなるほど豊富な経験があるかもしれないが、われわれにはみずから挑戦する若さと、新しいものを生み出す知恵と、失敗を恐れない勇気がある。未来はわれわれのものだ!というわけだ。
『サンダイバー』解説より 大野万紀
で。
「知性化戦争」シリーズの、真ん中の三部作(予定)の序章にあたるところの「変革への序章」ですが。
ざっと思い出しただけで7人の視点で交互に語られるもんだから(プラス予言の書とかの引用)、最初ぜんぜん話が見えなかったのです。
上巻の終盤あたりからようやく7人前が頭の中でつながってきて、わたしの脳内で快楽物質がじわーと出てくる音がした。
それからは俄然!面白くて!とても楽しく読みました。最後は半徹です。
ただ思うのですが。
闘争的で鍛冶を得意とするケンタウロス型の種族、
筋力と忍耐力に優れ航海を得意とする毛深い種族、
水中に住むカニに似た種族、
様々な酵素を体内で合成できる生まれついての薬師種族、
長所がよく分かんない車いす型の?種族、
そして新参で中途半端な能力ながら適応力と機知と文学とで一目置かれるヒト。
かつては宇宙を駆けていた6種族が、あえて科学技術を捨て中世風の暮らしを営み、互いに尊重し合ったりたまにいがみあったりしてる世界の物語は。
エデンのリンゴを食べる以前に戻る救済の約束と、天から降り来る終末の予言を持つ世界に、終末の日が来てしまった物語は。
これって、指輪物語の仲間じゃないのですか。
(昔のウィザードリィと書きそうになったのは内緒だ)
恒星間宇宙船艦隊が派手に砲戦しまくる間を、勇気とトリックとスピードで単艦突破!の燃える話の続きを期待していた身としては、ちょっぴり騙された感が、ないでもない、かも知れない。そもそもテイストが違いすぎるから本編が完結してから外伝としてやったらどうか、と言いたいような、気もしないでもない。
この辺は意見が分かれる所かも知れません。
ゆったりと寄り道して、さまざまな物語を包み込む壮大な設定を寿げたなら、そんなおおらかな気性だったら人生がもっと豊かであったろうにと思いながら、でもわたしはせっかちなんだ!!!!!!!!
おまけに何一つ解決しないまま第二部に続く!で。
おそらくはプチクライマックスとして用意されたと思われる場面が「エ○ー○○って誰だっけ?」と不発に終わり*1、我が生涯を振り返っても「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」、「エヴァンゲリオン シト新生」に匹敵する罪作り作品だと思わざるを得ない。
タイトルに含まれる「序章」の二文字は伊達ではありません。こんなに大部なのに序章ですか序章なんですか。
以上の不満点を除けば、面白さは文句なしです。
その上、どっぷり浸れる長い物語がまだまだ続くんです。
いま、三部作すべて翻訳されてから手をつけた幸せを噛みしめています。いろんな意味で。
*1:これは記憶力の悪い読者のせいであって作者の罪ではないかも