『太陽からの風』
- 作者: アーサー・C.クラーク,Arthur C. Clarke,山高昭,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/04
- メディア: 文庫
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復刊版でクラークを読む初雷の夜(字余り)
パソコンが使えない時しか本を読まないことだなあ。
いまごろ古典を読んでて感動したって言うの、ちょっと恥ずかしいですね。
ハヤカワ文庫はクラークを順次復刊する予定なのでしょうか。
クラーク御大は御年90歳、普通に考えると近い将来に予想されるイベントは訃報なのですが、なんか100歳おめでとうフェアとかも同じぐらいありそうに思えます。
短そうなのから読んでみたところ、駄洒落エンドでびっくりしました。英語の駄洒落なもんだから丁寧に訳注がついていてますます…
表題作「太陽からの風」はとても素敵でした。
宇宙でやるヨットレースの話です(超簡単な説明)
ここに登場するヨットの帆は1インチの数百万分の1の厚さ×5千万平方フィートの途方もないでかさと薄さ、帆に受ける風は太陽の光の圧力?
平方フィートとか言われても全く見当がつかないので、インターネットで調べてみました。
5千万平方フィート=140万5千坪。ますます分かりません。
えーと、464万5千平方メートル?
東京ドームが4万6千755平方メートルですか?
東京ドームの100倍の面積だそうです。行ったことないけれど。
いちいちこんな(要らない)ことを調べているから、読書が進まないのです。
とにかく、これだけでかいと総重量も馬鹿にならないから、きっと地上では広げらんないでしょうね。
地球の重力圏外で空気抵抗のないところで広げるなら、この帆が太陽の風を受けてかなりスピードが出るらしいです?
地上と全く違った環境で合理的に考えると、地上基準では非常識っぽくなるのが、思わず膝を打つ面白さだと思います。別の話で、月からロケットで飛び立ったけれど高度だか速度だかが足りなくて墜落しそうです→宇宙服を着てロケットからジャンプしろ!て話には驚愕しました。わたしがこう書くとデキの悪い冗談みたいですが、違います。
それで「太陽からの風」に戻りますけれども。
すごいアイディアの宇宙ヨットでレースして、ハラハラドキドキさせた末に主人公が優勝する話かと思ったら、そんなチープな話じゃなかったのです。
全人類が熱狂する大レースで優勝する名誉よりも、それについてくるであろう高額の賞金よりも、価値あるものがあるんだとクラーク先生は力強く宣言しているようです。
あるいは、夢がかなうとそこで終わっちゃうけど、夢のままだったら永遠の価値を持つ、そういう抽象的な話かも知れない。
純粋すぎて、ちょっと恥ずかしくて、生意気盛りに読んでたら素直に感動できなかったかもです。
疲れ切った大人には、とても心地よく思えました。
マジ心が洗われました。疲れてるのかな。
そしてここに「輝くもの」という作品が収録されていますが。
タイトルといい、作品が「残された手記」の体裁となっている点と言い、とてもラヴクラフトっぽくて喜びました(わたしが)
作品中に(たった)一ヶ所登場する「名状しがたい」という形容詞も輝いて見えました。
冷静に考えるなら、人類以外の知性の可能性というテーマは、ラヴクラフトの専売特許ではありません。
「残された手記」形式も、ラヴクラフトの専売特許ではないでしょう。
危険なフロンティアへの挑戦というテーマでも、選択肢に入ってくる形式だと思いますたとえば南極探検のスコット隊が、
と知ったかぶりをするためにインターネットで調べているうちに、むしろスコット隊→ラヴクラフトという気がしてきました。
いま調べたらスコット隊とアムンゼン隊が南極点目指して競争したのが1911年-1912年の冬。ラヴクラフトは21歳ぐらいで、若き科学オタクとしてニュースを熱心に追っていたに違いありません。
そして手記ものの白眉「ダゴン」は1917年執筆だと言われています!(鬼の首を取ったように)
なんてね。
ラヴクラフト系列の本はずいぶん読みましたが、神話作品を書いたことがある作家の中にクラークの名が挙がっていた記憶はありません。
また、この作品が仮にラヴクラフトオマージュだとしたら、文体を真似せずしてどうする、と思います。
あと、原題。
この本に各短編の原題が載っていないのはよろしくないと思いますです。
インターネットで調べてきました。
「輝くもの」は原題"THE SHINING ONES" 超まんまですね。
ラヴクラフト作品で邦題「なんとかなもの」っての、いま調べたら原題が"thing"のケース1こ(戸口にあらわれたもの/The Thing on the Doorstep)、タイトルで"ones"は意外なことにゼロ、あとは翻訳者のさじ加減っぽいので、タイトルの類似性云々は考え過ぎかもです。
ちなみにダーレスの「風に乗りて歩むもの」は"The Thing That Walked on the Wind"で、同じく"ones"はゼロでした。参考資料は「クトゥルー神話辞典」です。
こんなこといちいち調べているから、さっぱり読書が進まないことだなあ。
でも、彼らが呼びに行った"巨大な兄弟分(召使い?奴隷!)"はショゴスかも!?と色めき立つ瞬間。予想外の分野でラヴクラフトの影を見つける喜び。
たまんないです。
最近、こういう興奮だけを求めて読書をしているような気がします。
疲れてるのかな。