『地を穿つ魔』

地を穿つ魔 <タイタス・クロウ・サーガ> (創元推理文庫)

地を穿つ魔 <タイタス・クロウ・サーガ> (創元推理文庫)

 そうだ、私は(私だけは)神話を死なせたりはしない。神話を沈滞させもしない。常に斬新に保つように心がけねばならないのだ。神話を改良し、常に新鮮なひらめきを求め続けよう。決してHPLの水準には及ぶまいが、(どれだけ書けるかはわからないにせよ)彼の作品群にできるだけ接近していこう。
 ブライアン・ラムレイ『黒の召還者』「日本語版への序より」

 作者のこの発言が広く知られていながら作品そのもの紹介は遅れていた?待望のタイタス・クロウシリーズ長編一作目です。
 わたしは『黒の召還者』は見たことがなく、短編集『タイタス・クロウの事件簿 (創元推理文庫)』しか読んでなかったのでとても楽しみにしていました。
 「いやなんかタイタス・クロウシリーズってスゴイらしいよ!」って。
 『タイタス・クロウの事件簿』の朝松健氏の解説から空想を広げるに、なんか、最後にはクロウが邪神を狩ってそうで……。


 しかし。
 シリーズ一作目のためか?タイタス・クロウの活躍は控えめでした。
 ウィンゲート・ピースリー教授の方が英雄的だと思いました。クロウが邪神眷属どもの念波攻撃に部屋の隅でガタガタ震えている間に、教授は眷属どもと科学の力で戦う準備をしていたのです!
 教授が極秘に集めた協力者と資金と、それで築いた国を越えての協力体制。本書クライマックスの巨大クリーチャー狩りの日に至るまで、何年にも渡る地道な努力が積み重ねられてきたのだろうなあと思うと、興奮で体が震えてきます。そっちの話の方も詳しく読みたいっす。てかタイタス・クロウ不要論(嘘)
 つーか、タイタス・クロウって、どことなくへっぽこ感が…? 大魔術師のくせに泥棒に入られたりしてるし。
 ここで、わたしは「クロウの発言=ホラ」疑惑を提示したいと思います。
 クロウには親友のド・マリニーという男がいます。クロウの凄いオカルト体験談をもとにしてド・マリニーが手記の形で『地を穿つ魔』を書いたという設定になっています。どうも、クロウがあることないこと語ったホラ話を、ド・マリニーが真に受けて「アイツはマジ凄い!」と書いてるみたいな気がして気がして。そんで、優れた聞き役のド・マリニーがいないとクロウは生き生きとホラ話を語れないような気が気が。まあ、なんつか、二人で仲良く時空を越えて戦い続けて行ってほしいと思います。
 とにかく、眷属の念波攻撃で弱りながらも「ふ。俺ほどのテレパシー能力を持たなくて君は幸せだったね」とか自慢することを忘れないクロウに、素直に感心しちゃうド・マリニーはすごくいい人だなあと思いました。


 今思い返すなら、短編集の方もウッカリ感が漂っていたかも知れません。
 もっとガチなホラーか理詰めの展開を予想していたので、民話みたいなトホホオチになごんだかも。そう言えば。