航空宇宙軍史の想い出

 「航空宇宙軍史シリーズ」の本をひっぱり出して読んでいます。
 「航空宇宙軍史シリーズ」とは、SF作家・谷甲州の代表作シリーズです。
 架空未来史モノとでも言いましょうか、21世紀半ばからの航空宇宙軍による深宇宙探査から始まり、遠い未来の汎銀河連合との戦い、地球の滅亡、そして再生までを語る遠大なシリーズです。
 だいたいのアウトラインは既に発表された作品で語られているぽいですが(年表も発表されている)、間の細かいハナシはこれからもぼちぼち書かれていく予定…らしいのですが、かれこれ5、6年ぐらい新作を待ってる気がします。
 このシリーズで、いまのところいちばん多く描写されているのは、2099年から1年余り続いた「第一次外惑星動乱」です。わたしがいちばん惹かれるのも、ここのあたりです。
 第一次外惑星動乱とは、簡単に言えば、地球-月連合に対して木星・土星の衛星の都市が同盟して独立戦争をしかけて来て、しかもパールハーバーよろしく日曜日に奇襲だったりするわ、重水素(現代で言えば石油にあたる)を速攻で押さえられちゃって地球側超ピンチ!
 なんですが、短編の、特に奇襲をくらった側(地球-月連合側)視点の作品で戦争全体が鳥瞰的に述べられることはほとんどありません。ただ、その時代の宇宙に居合わせた一個人が見たもの(戦争のごく一部分)が語られていきます。
 それゆえ、ちょっと読んだだけでは分かりにくい感じがするのですが(特にどことどこが戦争しているかが分かるまでがタイヘンだった)、がまんして読んでいくと、あるとき突然バラバラに見えたエピソードがばーっとつながって全体の構図が見えてきます!見えてくるのです!
 その瞬間の「ユリイカ!」と思わず叫びたくなる感動を忘れられないので、今でもこの人の本は見つけ次第買ってしまうことだなあ。
 あと、このシリーズで印象的なのは、宇宙の冷たさと太陽系の広さをありありと感じるところです。いろんな所で繰り返し言っているのですが、銀河英雄伝説の後に太陽系内で遭難する話(『仮装巡洋艦バシリスク (ハヤカワ文庫 JA (200))』収録「仮装巡洋艦バシリスク」)を読むのは衝撃的でした。
 そのくせ、2099年頃には、太陽系内はすでに日常の延長になっています。
 たとえばわたしたちがスペースシャトルの打ち上げを見て胸をときめかせるような、フロンティアへ冒険に乗り出す高揚感は、太陽系内にはあまりありません。たいていの登場人物は、きつい仕事やいやな上司、そして退屈な日常にうんざりしながら働いています。わたしたちが憧れる宇宙にいるってのに。
 で、第一次外惑星動乱が唐突にはじまり、退屈な日常を吹き飛ばす訳、、、
 なんですが、ヒロイックに活躍するぞ!という高揚した雰囲気はあまりありません。*1
 登場人物の多くは、たまたまそこに居合わせたスキルを持った人間として、出来るだけのことをします。しばしばそれは戦争の趨勢を変えてしまう何かであったりもします。
 が、それを<いま>理解するのは作者と読者だけで、登場人物がそれを知るのは、ずっと後になってからのようです。
 なぜなら、一個人が戦争の趨勢をリアルタイムで全て理解することは不可能なことだからです。
 そのドライさとも、リアルさとも、地味さとも思える部分が、格好良くてしびれるのです。<注>
 理数系肌の人は、ちゃんと軌道計算して小説を組み立てているところとか、機動爆雷をはじめとする説得力のある宇宙での兵器にしびれるらしいですね。
 作者氏は、個人用のコンピューターが普及する以前に計算尺とか電卓とか使って計算してたらしいです。おッそろしー。

*1:外惑星連合側ならもうちょっとヒロイックな感じもするのですが…