『黄金伝説』
- 作者: 半村良
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/12
- メディア: 文庫
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漫画や映画で取り上げられる太平洋戦争には、ちょっと勉強したからウルサイですヨ!(とか言ってて、主なテキストはモデルグラフィックスだったりする)
しかし、現実にあった時代としての太平洋戦争を思うとき、わたしは沈みゆく夕日を連想します。
というのも、思春期以上の年齢でアレを体験した人たちは、今、寿命を迎えつつある。あと何年かすれば、歴史の水平線とか、記憶の地平線とか、とにかくそんな感じの彼方に没して見えなくなってしまうんじゃないかと。
この物語が発表されたのは1973年(昭和48年)だそうです。
物語の時代も、同じ頃と考えていいでしょう。*1
主人公の一人は45歳、太平洋戦争によって運命がねじ曲げられた一人です。しかも、戦後25年以上経っても、その時の思いは風化していません。
戦後生まれの若者たちも登場しますが、戦中〜戦後の混乱期に、親たちに何かあったらしい、と感じているようです。軽々しく尋ねることの出来ない秘密が、戦争の記憶と密接にからんで家族の中にあります。
この頃は、ある年齢以上の人々は多かれ少なかれ戦争により運命が変えられていて、それにまつわる暗い記憶を心に秘めていたのでしょうか。わたしたちが持たぬ心の闇だと思いました。*2
半村良氏は、昭和8年生まれ。終戦の年には12歳。
人の心の真ん中に戦争の影が居座り続けていた時代を生きたのでしょうか。
物語の登場人物は、「このままで終わってたまるか!」という気概と野心をたっぷり持っているようです。男も、女も。意味とか目的とかは問われず、ただ明白な目標(敵)があって、自分の中には未だ闘争心がある。とそんな感じ。これは時代の差でしょうか、作者の人柄に由来するものでしょうか。物語に織り込まれた戦争の手触りにショックを受けたので、時代と人柄と両方かも知れない、と思いました。
物語の中盤、謎の人物を追いかける話と、埋蔵金発掘計画が交互に語られることになります。
(前略)だから、黄金伝説は黄金の魅力によるものじゃない。極端に言えば、その終点は何だってかまわないんだ。問題は人間の夢だ。その夢が燃えたつものならなんでもよかった。夢の燃料だ。触媒だ。黄金はその最大公約数だよ。よくサラリーマンが、どっか面白いバーはないかな、なんて言うだろ。そういう気分がとてもよく似ていると思うよ。
最後がショボいですが(笑)こんな一文がありました。
この黄金伝説=夢、の比喩に、様々なものが重ねられます。挫折した画家の再起、ある男の恋と戦い、女の自己実現、、、そして関係者は様々な思いを胸に戸来村に集います。
が、その後の展開が全く予想外でした…びっくりした。ページをめくるのももどかしかった。
とても楽しみましたが、気概と野心をたっぷり持った人たちの黄金伝説が、伝説でなくなっちゃったあとの様子は、無理にはしゃいでいるみたいで寂しい感じがしました。
上手く言えませんけれども。