『LOVERS』

 ネタバレには配慮したつもりですが……


 隣の席がいちゃいちゃしたじゃない、仲の良さそうなカップルでした。私はふらりと一人で行ったのですが、だからと言って妬いてる訳ではないのですが、終わった時にカップルが呆然と固まっていたので、彼らは劇中の誰に感情移入していたのであろうかと、しばし考えました。私はアンディ・ラウがとてもかわいそうだと思いましたが、けっして、固まっているカップルを見て溜飲が下がったとかそんな事ではありませんけれども。


 なにしろ映画ですから、絵づらがいいとか勢いがあるとか話しに引き込まれるとか、なにか優れた点があれば多少の矛盾やアラは気にしません。つーか映画館にはいっときの夢を見に行っているのであるからして、うまく騙して下さるならすすんで踊らされる所存であります。
 が、今回は、クライマックス近くでありえないメーターが振り切れてしまいました。

 普段喜んで視聴しているものはどうなのかと、前半では振り切れなかったのかと、つっこまれそうな気もするのですが、なんかもう、投げナイフが肺にぶっすり刺さった人があんなに元気なのはどうなのどうなのどうなの。「抜くと死ぬぞ」って、抜かなくても既に致命傷なのでは???
 ここを受け入れられないと、ラストの激しくも悲しいバトルと美しくも悲しい葛藤が成立しなくなってしまうので、「自分の目で見たものと常識がくいちがったら、オープンマインドで常識の方を捨てるんだ!今こそホーガン魂だ!」と自分に言い聞かせてがんばりました。このような映画のこのような場面で引き合いに出してしまって、J.P.ホーガン先生ごめんなさい。でも、先生のお陰で乗り切れたので感謝しています。


 などといきなり文句を言ってしまいましたが、大いに楽しめる映画ですので、紆余曲折を経たカップルさん以外のあらゆる人にお勧めします。
 冒頭の豪華絢爛な遊郭はたまんねーですヨ。
 予告編で見たシーンはこれか、とハタと膝を打ってしまったのですが、チャン・ツィイーが円形に配置した太鼓の真ん中に立ってですね、出題者が太鼓を鳴らした通りに太鼓を打つのでありまする。衣装の袖で!(笑) 踊りながら!(笑) 伴奏付きで!(笑) ←思わず括弧付き文字を挿入してしまうほど感動しました。
 出題者がマメをはじいて太鼓を鳴らしてるのも粋なんだか変なんだか分からないし、こんな無茶苦茶な出し物あるかい、と思いつつもチャン・ツィイーの止めポーズも自信の笑みも美しいので、悔しいが入場料は既にモトをとったな、と思いました。
 竹林でのバトルもステキでした。梢の細いところを踏んで走るのは達人の技だと記憶しているのですが、一般兵士もその技を披露してくれて、さすがは大唐帝国の精鋭部隊!奴らニンジャのルーツなのかも!(*゜∀゜)=3 ムッハー 飛刀門衆の衣装も竹林と調和して美しい。美しい色づかいと超絶剣技は大画面で見なくちゃですよ。
 ストーリーもよく練られていると思いました。秘密がひとつ明かされるたびに流れが逆転するので、3人はどうなっちゃうんだろうと引き込まれますし、前半のモチーフが形を変えて後半で繰り返されるのも効果的だと思いました。
 私はこの映画を観たことを後悔していませんとも。
 いやむしろ『華氏911』(id:wang2zhonghua:20040823)よりもこちらの方が、映画館でお金を払って見るにふさわしいと思ったのですが、馬鹿みたいな感想かなあ。


 P.S.
 盲目の天才踊り子にして武芸の達人。名人の弓の重い手応え。正確で美しい投げナイフの軌跡。と聞いてムラッと来る人に特にオススメです「LOVERS」(ほとんど名指し)