『賢者の石』--支配的5パーセント!

賢者の石 (創元推理文庫 641-1)
コリン・ウィルソン

 この方は評論家…なんですよね?
 でもクトゥルー神話ものも3作ほど書いていて、これはその中でも最長の作品です。
 『あなたの人生の物語』収録の「理解」を読んで、この本が思い出されたので押入れから発掘してきました。すっかり黄色くなったページをぱらぱらとめくったら、十ン年前に読んだときのメモがはらりと落ちました。
 「クトゥルー神話を餌にコリン・ウィルソン先生のご高説を延々と聞かされてしまった」
 「前半死ぬほど退屈であった」
 イギリスの探求心旺盛な青年の半生が延々と書かれていて、なかなか旧支配者のみなさんが登場せずやきもきしたのを、昨日のことのように思い出してしまいました。


 前述の「理解」と同様に、この作品も超人になる話です。
 読み返す前、漠然と考えていたことは、超人になる方法が、
・「理解」
 :アリモノの脳に+αする方向
・『賢者の石』
 :生まれつきの脳だけで可能。脳に電極を刺して通電するのはコツをつかむまでの補助手段。


 とまあ後者の方が、人間の能力に対して夢を持ってるんじゃないかなあ、作者の思想だけじゃなく、書かれた時代の雰囲気も反映しているのかなあ、とかぼんやり思っていました。
 ところが読み返してみると『賢者の石』はもっと過激にすごかった!
 18世紀から19世紀の間に人類は既に進化の階梯を一段上がっていると言うのです!なのにどーして人類がかわりばえしないかと言うと、脳の能力を全部発揮していないからだッ!!*1
 強引な逆転の発想に・過激なポジティブシンキングに「な、なんだってー!?」と目からウロコがふっとぶ思いでした。
 こういうトンデモ思いもよらぬ発想を聞かされるとワクワクしちゃってたまりません。鼻血が出るほどエキサイトしてしまいした。


 そしてもう一つのキーワードが「支配的5パーセント」でしょうか。
 どんな動物の群の中にもリーダーとなる資質を持つ者が5%含まれるんだそうです。で、それは人間でも同様。
 人間の支配的5%がどのような人間かと言うと、そこそこの幸せや安定に安住するタイプではなく「つねに(人生の)目的を求めてやまない生来の強い欲求を備えている」*2んだそうです。んで、社会が悪くて、とまでは言ってなかったかな?えーと環境が悪くて、彼らが自分らしく生きるチャンスが与えられないと、うつ病になったりアルコール症になったり、あるいはひどい殺人鬼になったりするのだそうで。
 ちぃとこちらをご覧下さい。→amazon:コリン・ウィルソン 和書のところ。
 ウィルソン先生の、後年のあまり趣味が良いとは言い難い興味の方角は、その話の延長線上にあるのでしょうか。先生が挫折した支配的5パーセントに惹かれるのは、先生自身が処女作『アウトサイダー』(ASIN:4087601404*3でブレイクする前は、自分自身が「チャンスが与えられない支配的5パーセント」だったという思いがあったのかなー。なんて思った。
 そういう意味では、貧しい家庭に生まれて進学できず・でも学問への欲求は抑えがたく大英図書館に通って独りで本を読んで勉強した、もしかしたら同僚からちょっと浮いちゃってて「俺はおまえらとは違うんだ!いつか証明してやる!」と歯を食いしばってたりとか、そんな先生の「俺の人生こうだったらなー」と夢想した姿が正直に書かれている小説だったのかもなぁなんて妄想して、若き日のウィルソン先生にちょっぴりときめきました。


 あ。
 わたくし、コリン・ウィルソン先生の本はクトゥルー神話もの3冊と『魔道書ネクロノミコン』(ASIN:405900006X)に寄せた序文しか読んでおりません事をあらかじめご了承下さい。
(たったそれだけで偉そうに語っちゃってすみません)


 『賢者の石』のステキ紹介文を発見!
 http://d.hatena.ne.jp/ita/20010323#p2

*1:至高体験―自己実現のための心理学』(ASIN:4309461875)『右脳の冒険―内宇宙への道』(ASIN:489203083X)あたりに詳しいのでしょうか?

*2:『魔道書ネクロノミコン』序文より

*3:『アウトサイダー』は数ページで挫折しちゃったのでなにも語る資格はありませんが